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	<title>GENEI SERIES Official Website &#187; 幻影に舞う白銀</title>
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	<description>幻影シリーズ　オフィシャルウェブサイト</description>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_最終話</title>
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		<pubDate>Wed, 09 Mar 2016 06:29:44 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[その日のロンドンは、珍しく晴れていた。 朝方降った雨でしとどに濡れた石畳の道を、白銀の髪を結い上げた少女が歩いている。煉瓦とモルタルの古めかしい街並みを残す路地を抜けた先、市内中心部をとうとうと流れる大河が彼女を待ち受け [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>その日のロンドンは、珍しく晴れていた。<br />
朝方降った雨でしとどに濡れた石畳の道を、白銀の髪を結い上げた少女が歩いている。煉瓦とモルタルの古めかしい街並みを残す路地を抜けた先、市内中心部をとうとうと流れる大河が彼女を待ち受けていた。<br />
見納めと思っていた汽船の往来と、ロンドンの湿った空気、そして幾ばくかの郷愁。少女はそれらすべてを肺の中に思い切り吸い込み、吐き出した。<br />
そしてようやく、帰ってきたのだと理解する。<br />
昼下がりの太陽が川面を照らす様子をぼんやりと眺めていたところで、少女のスマートフォンが鳴動した。</p>
<p>『おー、シルヴィア。元気か？』</p>
<p>「ああ、ちょうど散歩に出ていたところだ」</p>
<p>電話を掛けてきたのは、元上司のヴァネッサだ。<br />
隊長という肩書きを微塵も感じさせない気安い言葉に、シルヴィアの声も自然と柔らかくなる。</p>
<p>『報告書読んだぞ。まとめてもらって悪いね』</p>
<p>「構わない」</p>
<p>一連の『オーキス事件』は、首謀者オーキスことヨアン・ドラクロワの死亡という結末によって幕を閉じた。<br />
だが、タロット使いが対処した事件は、氷山の一角に過ぎない。今後の追加調査で、事件の全容が広範に及ぶであろうことは想像に難くない。政財界のフィクサーでもあった彼の死により、危ういながらも保たれていた世界の均衡すら崩れるだろうが、それは少女たちの管轄外だ。</p>
<p>シルヴィアは、川沿いのベンチに腰を下ろし、大きく伸びをする。</p>
<p>『ま、さすがに今回の騒動で上層部もレグザリオに懲りたろう。じきに本部のお偉方も方針変更するだろうな』</p>
<p>レグザリオの動きは、終始不審だった。<br />
人々をダエモニアから救うというヨアンの研究を主導しながら、なぜ後になって裏切ったのか。なぜメーガンを仕向けてまで研究成果を隠蔽しなければならなかったのか。<br />
レグザリオに対しての謎は積もる。<br />
彼らはいったいなにを、どこまで知っているのか。</p>
<p>「そのお偉方とやらに説明しなくてもいいのか？」</p>
<p>『ん？　ああ。ジャンケンで勝ったからな』</p>
<p>その言葉の意味するところはシルヴィアには分からなかった。<br />
詮索する意味もないだろうと踏んだシルヴィアは、今朝方届いた報告書の話をする。</p>
<p>「永瀧支部の報告書を読ませてもらった。あちらも一波乱あったようだな」</p>
<p>『らしいね。いやー、新人ばっかの中、よく対処したもんだ』</p>
<p>『オーキス事件』と並行して、永瀧支部でも大騒動が起こっていた。<br />
どうやら『本当の対消滅』を起こしたタロット使いが現れたらしい。彼女もシルヴィア同様、ドッペルゲンガーとの衝突によってアストラルクスから姿を消し、その後舞い戻ってきたという。</p>
<p>「本当の対消滅、か」</p>
<p>『なんだ、永瀧の『節制』使いがうらやましいのか？』</p>
<p>「そういう訳ではないが……。まあ、彼女達とは茶でも囲んで話のひとつでもしてみたいものだ」</p>
<p>「せやったら英国式のめっちゃうまい『お紅茶』ってやつをご馳走になりたいなぁ？」</p>
<p>軽い冗談のつもりで答えたシルヴィアは、聞き覚えのない声を耳にした。<br />
とっさに振り向いたシルヴィアは、声の主と思われる少女を見つける。大荷物を持って旅行中らしい四人組の少女達の会話が、偶然にもシルヴィアへの返答となっていたらしい。</p>
<p>『あーっ！』</p>
<p>そのとき、電話口でヴァネッサが素っ頓狂な声をあげた。</p>
<p>「どうしたんだ急に」</p>
<p>『あー、お前。今日からそっちで永瀧の新人どもが研修するって知ってたか？　うちのお嬢様ふたりと一緒に』</p>
<p>シルヴィアの背筋が一瞬で凍った。<br />
ロンドン支部の研修予定など、まったく聞き覚えがない。</p>
<p>「な、永瀧の新人が研修だと！？」</p>
<p>思わずおうむ返しして聞き返したシルヴィアだったが、その声は川面を眺めていた四人の少女の耳にも届いていた。彼女達はそれぞれシルヴィアの方へ視線を向けるが、焦りを抑えきれないシルヴィアが、それに気づくはずもない。</p>
<p>「は、初耳なんだが……」</p>
<p>『そりゃま、言うの忘れてたからな！　ハハハハハ！』</p>
<p>豪放磊落、といった様子で豪快に笑うヴァネッサに、シルヴィアは思わず眉間をつまんだ。</p>
<p>「忙しいのは分かるが、そういうことは前もって伝えてくれ……。こっちにも準備ってものが……」</p>
<p>「あの。もしかして……レンハートさん、ですか？」</p>
<p>シルヴィアに、四人組の少女のひとりが話しかけてきた。<br />
太陽のように明るいナチュラルヘアを煌めかせる彼女は、どこか先代の『太陽』の使い手を彷彿とさせる。</p>
<p>「あっ、ああいや、ええとだな……」</p>
<p>いや、『太陽』の使い手を彷彿とさせる、どころではない。<br />
『太陽』の使い手本人だった。</p>
<p>こちらを向いている四人の少女の顔をひとつひとつ見回して、シルヴィアはようやく、彼女達がその『永瀧の新人たち』であることに気づいた。<br />
最初に紅茶の話をした騒がしい少女が、『節制』の白金ぎんか。シルヴィアの正体に気づいて話しかけてきたのが『太陽』の太陽あかり。そして、あかりの隣に佇む少女が『月』の月詠るな。そこから一歩引いたところで、『星』の星河せいらが仲間達とシルヴィアを眺めていた。</p>
<p>硬直したシルヴィアと、返事を待つあかり。<br />
ふたりの作り出した沈黙に、るなが慌てながら割り込んでくる。</p>
<p>「あ、あかりさん。人違いかもしれませんから……」</p>
<p>あかりの肩に手を置きながら、るなはシルヴィアに頭を下げる。クエスチョンマークを浮かべるあかりに、今度はせいらと、ぎんかが声を掛ける。</p>
<p>「るなの言う通りだ。そう簡単に目的の人物に出会えたりしない」</p>
<p>「せやで～？　そもそもレンハートさんはかなりのやり手や。そんな人がこんなところでのんきに電話なんてせえへんやろ」</p>
<p>返答を考えあぐねていたシルヴィアの退路を、少女達は奇妙な一体感でもって塞いでしまった。<br />
シルヴィアは少女達から目を背け、小声で電話口のヴァネッサに詰め寄る。</p>
<p>「も、もう来てるじゃないか……！　なんの準備もできていないぞっ……！」</p>
<p>『あー、悪い悪い』</p>
<p>何の誠意も感じられないヴァネッサの謝罪を聞き流し、今日の予定を頭の中に浮かべる。川向こうの時計塔で時刻を確認しようと顔を上げたその時、二人の見知った少女と目が合った。</p>
<p>「お久しぶりですね、シルヴィアちゃん」</p>
<p>「シルヴィア様～っ！」</p>
<p>四人の少女達とは別の方向から、大きなスーツケースを携えたミレイユと万梨亜が声を掛けてきた。<br />
だがふたりの声は、『人違い』だと思っていた四人の少女達の耳にも届いてしまう。</p>
<p><a href="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/03/05_13.jpg"><img class="alignleft size-medium wp-image-780" src="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/03/05_13-424x600.jpg" alt="" width="424" height="600" /></a>「ん～？　そういやこの人、どっかで見たことあんな？」</p>
<p>「もしかしてこの人が、ロンドン支部の伝説の……」</p>
<p>ぎんかとせいらが、まじまじとシルヴィアを見つめる中、るなが声をあげる。</p>
<p>「あっ、お久しぶり、です。皇さん、優希さんっ」</p>
<p>るなは、ミレイユと万梨亜に恭しく会釈をした。ミレイユと万梨亜も同じく会釈を返し、彼女の方へ駆け寄った。</p>
<p>「るなちゃん……！　よかった、元気そうで……！」</p>
<p>「あら。もうこちらへ着いていましたのね、るなさん達は」</p>
<p>万梨亜ら三人は、どうやら元々の家柄の関係で以前からの知り合いだったらしい。久しぶりの再会に話の花がひとしきり咲いた後、六名のタロット使いの視線は必然的にシルヴィアへと集まっていた。<br />
シルヴィアは、とにかくこの場を逃れようと電話を再び耳に近づける。</p>
<p>『おーおー、全員揃ったみたいだな。それじゃ、私はシエスタの時間だから後は任せた』</p>
<p>「ち、ちょっと待て！　そっちはまだ午前中だろう！？　寝るな！」</p>
<p>言うだけ言って、ヴァネッサは、雫がやるような丸投げを残して電話を切ってしまった。機械的なコール音は、ただ『電話が切られた』ことだけを単調なリズムで繰り返し語っている。<br />
力なく電話を下ろしたシルヴィアへ、あかりが練習してきたであろう言葉を叫んだ。</p>
<p>「な、永瀧支部から研修に来ました、太陽あかり以下四名ですっ！　よ、よろしくお願いします」</p>
<p>「あ、ああ……」</p>
<p>シルヴィアは、冷や汗が額を流れ落ちないようにすることで精一杯だった。</p>
<p>　　　　　＊</p>
<p>一方、談話室で電話を終えたヴァネッサは滑るようにスマートフォンの電源をオフにし、シルヴィアからの追撃を受けない逃げの姿勢を取る。</p>
<p>「お～、くわばらくわばら」</p>
<p>そしてそのままソファに横になり、午前中から長いシエスタに突入した。</p>
<p>「……うちの隊長、また伝え忘れてたっぽいね」</p>
<p>「面倒な上司を持つと苦労するよな、お互い」</p>
<p>その場に待機して一部始終を見守っていたシャルロッテとエレンは、寝息を立てて居眠りを始めたヴァネッサの様子を見てため息をついた。<br />
オーキスの消失によって、緊急出動も減っている。談話室は暇を持てあましたタロット使い達のたまり場になっていたのだった。<br />
そんな気だるげな空気を一掃するように、鬼気迫る表情を浮かべたマルゴットが扉を開け放った。</p>
<p>「舜蘭とクリスティンを見ませんでしたかっ！？」</p>
<p>「舜蘭は食い倒れの旅に行ったよ～」</p>
<p>「クリスティンは『仕事』って言ってたな。大荷物持って、楽しそうに」</p>
<p>「また……逃げられた……」</p>
<p>待機中のふたりがそれぞれの行き先を告げると、マルゴットはがっくりと項垂れて壁に体を預けた。おそらく、経費の使い込みが発覚したのだろう。<br />
その時、ダエモニア発生を告げるアラームが鳴り響く。</p>
<p>「もう、こんな時にっ！　雫、発生源は！？」</p>
<p>談話室のモニタに、耳掃除の途中らしい雫が映った。<br />
有事だというのに雫はだらけた表情のまま大あくびをひとつ。煩わしかったのか、けたたましく鳴り響くダエモニアのアラートを消した後で、モニタにアメリカ支部の見取り図を表示させた。<br />
点滅するのは、とある地下室。どうやら発生源は霧依らしい。</p>
<p>「あれほど言ったのにまた妙なモノを持ち込んで……！　霧依、今日という今日は許しませんからね～ッ！」</p>
<p>マルゴットは血相を変えて談話室を飛び出していった。<br />
その様子にまた雷が落ちるであろうことを予期したシャルロッテとエレンは、その場で顔を見合わせて肩をすくませる。</p>
<p>「アタシらも寝とくかぁ～」</p>
<p>「そうだねぇ、寝たふりしとこ」</p>
<p>狸寝入りで静まりかえった談話室。<br />
そこから扉一枚隔てたバルコニーで、ルーシアは春のうららかな光を浴びながら、遠くに見える街並みをぼんやりと眺めていた。</p>
<p>「…………」</p>
<p>土の臭いも血の臭いも遠のいた大都会の景色は、ルーシアの過ごした少女時代とはかけ離れていた。それでも、かつての情景だけはいつでも鮮明に思い出すことができた。</p>
<p>「……みんな死ねばいいのに」</p>
<p>その口癖は、ルーシアがタロット使いを辞めるその日まで続くだろう。<br />
すべての人間が消え去って平穏になった世界、それを見たいがためにルーシアは戦い続ける。名実ともに、ひとりぼっちになるその日まで。</p>
<p>　　　　　＊</p>
<p>永瀧支部を訪れたメーガンは、エティア、アリエルの双方に『オーキス事件』の真相を『報告書の通りに』説明していた。<br />
シルヴィアがまとめた報告書の中では、オーキスはあくまでも『自らの研究を反故にしたレグザリオへの復讐のために行動に及んだ』ことになっていた。オーキスの数ある動機のひとつであったオーキスとメーガンとの因縁については、一切記述がなされていない。</p>
<p>メーガンはそこで、シルヴィアの意図に気づいた。<br />
報告者のシルヴィアは、メーガン自身へ追及が向かわないよう、あえてこの部分を削ったのだ。『借り』を作ってしまったことを悟ったメーガンは、沸き上がる感情を殺し、淡々と事情説明を終えた。</p>
<p>「……以上で報告は終わりです。やれやれ、ジャンケンひとつでとんだ貧乏くじでしたよ」</p>
<p>険しい表情を浮かべるエティアとアリエルは、周囲にネコとカラス――レグザリオの目がないことを確認して、背もたれに体を預けた。</p>
<p>「……どう思いますか、アリエル」</p>
<p>問われたアリエルは、ただ一つだけ頷くことでエティアの考えに同意を示した。<br />
アリエルは椅子から立ち上がり、永瀧支部の指揮室の窓を開けた。あたたかで開放的な春風に長い髪の毛を揺らしながら、アリエルとメーガンに目配せして呟く。</p>
<p>「エレメンタルタロットの使い手が全員揃った今こそ、頃合いかもしれませんね」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>風が、窓の外の桜を揺らす。<br />
こぼれ落ちた花びらは吹き抜ける風に乗って、晴れ上がった蒼穹へ飲み込まれていった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>二十二名のタロット使いは、これから先も戦い続けるだろう。<br />
彼女達の信ずる意志や理想、もしくは野望が成し遂げられるその日まで。<br />
誰にも顧みられることのない、この生と死の境界線上にたゆたうアストラルクスと呼ばれる世界の中で。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>幻影に舞う白銀　Ｆｉｎ</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_10</title>
		<link>http://geneino.com/hakugin-novel/05_10</link>
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		<pubDate>Wed, 09 Mar 2016 06:29:02 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[オーキスの右拳は、シルヴィアの掌で受け止められていた。押すことも引くこともできず、その場で完全に止められた。 もう片方の手を延ばすも、そちらもシルヴィアが受け止める。 放たれる光と闇は、明暗の境界線をはっきりと分けた。  [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>オーキスの右拳は、シルヴィアの掌で受け止められていた。押すことも引くこともできず、その場で完全に止められた。<br />
もう片方の手を延ばすも、そちらもシルヴィアが受け止める。<br />
放たれる光と闇は、明暗の境界線をはっきりと分けた。</p>
<p>「……滑稽だな。貴様の正義など、結局は理想論でしかない。実現性の限りなく低い、狂った世迷い言だ」</p>
<p>言い放ったのはオーキスだった。<br />
互いの手を組み合ったふたりは、顔と顔を付き合わせ、肉体を、そして強靱なイメージを戦わせ、ぶつけ合う。</p>
<p>「理想論でも妄言でもいい。私は、そうして救ってきた。そしてこれからも、正義の理想の体現者となって、人々を救い続ける！」</p>
<p>「自らの矛盾を理解していながら、なぜ私に刃向かう！　なぜ根源治療の芽をなぜ摘もうとするッ！」</p>
<p>負の感情が毒霧となってオーキスの体躯から吹き出した。黒い濃霧はシルヴィアはおろか、展望デッキ全体を包み込む。<br />
黒い闇の中で、シルヴィアはオーキスの上体を受け止めていた。言葉足らずの会話でも、オーキスの積み上げてきた感情は、シルヴィアには手に取るように分かった。</p>
<p>「……お前は、道を誤ったんだよ。正義は、己の欲望や願望を叶えるために存在している訳じゃない」</p>
<p>「窮屈だな、貴様の正義とやらは！」</p>
<p>かつてメーガンから同じ言葉をぶつけられたことをシルヴィアは思い出す。<br />
以前は憤り、メーガンと対峙した。しかし今となっては、シルヴィアはその真意を理解する。</p>
<p>『窮屈さ』こそが、正義の呪いだった。<br />
自らを正義の型にはめて生きることこそ、散っていった仲間のため、救えなかった人々のために負うべき代償だ。</p>
<p>「私は倒れるまで戦うと決意した。それは自らに科した罰だが、生きる目的でもある」</p>
<p>周囲を包む黒い霧は、シルヴィアの光によって払われた。<br />
展望デッキは晴れ上がる。オーキスから漏れる怨嗟のオーラは、白銀の光で編まれたカーテンで隔たれる。</p>
<p>「ならば……！」</p>
<p>オーキスはシルヴィアの両手を振り払い、飛び退いた。<br />
ダエモニアへと変容を始める体に、三本目の抑制剤を流し込む。咳き込むオーキスはどす黒いダエモニアの環流を吐き出し、濁り淀んだ双眸でシルヴィアをにらみつけた。</p>
<p>「その正義に殉じて、ここで果てろォッ！」</p>
<p>オーキスは、守りを棄てた。<br />
確実にシルヴィアを屠るという決意が、見開かれた瞳や、弱点であるコアを晒した格好、振りかぶった豪腕から読み取れる。</p>
<p>差し違えるより他はない。<br />
シルヴィアは、まぶたを閉じた。<br />
迫るダエモニアの気配を全身にひしひしと感じる。そのもっとも濃い一点だけを確実に貫く、白銀の刃を想起する。</p>
<p>空想の鞘。<br />
エレメンタルタロットから漏れ出る意志によって織り上げられたいくつもの騎士剣の束。無限に広い武器庫、剣が散乱した大広間に意識を移し、イメージの中へ飛び込んだ。<br />
両手をかき分け、剣を探す。<br />
ぎっしりと詰まった棚を、壁掛けの剣を無視し、大広間の奥へ。重い扉を何度もこじ開け、突き進む。<br />
目の前には、際限なく想起される剣の山があった。<br />
だが、シルヴィアが求めるものは、その程度の武器でも言葉でも意識でもない。<br />
欲するのは、至高の剣。<br />
シルヴィアが気づき、掴んだ正義をそのままに具現化する正義と呪いの宝剣。<br />
いかなる状況に置かれようとも折れることのない白銀の意志。</p>
<p>何千何万何億もの捜索を経てたどり着いた理想の武器は、大広間から続く武器庫の最奥部にあった。<br />
それは、なんの変哲もない、使い慣れた一振りの長剣だった。鞘の隙間から、まばゆいばかりの光が漏れている。</p>
<p>間違いなくこれだと分かる。<br />
シルヴィアは、迷いなく空想の鞘から抜き取った。</p>
<p>　　　　　＊</p>
<p>オーキスは、シルヴィアに覆い被さるような体勢で制止していた。<br />
数秒の沈黙の後、バランスを崩したのはオーキスだった。胸元に取り込まれていたコアに、眩い白銀の長剣が突き刺さり、その隙間から体内を環流していたダエモニアの体液が流れ出している。</p>
<p>「なぜ……、だっ……。矛盾した貴様に、まやかしの理想しかない貴様に……なぜ私が、負ける……」</p>
<p>両膝をついたオーキスの体から、シルヴィアは白銀の剣を抜いた。コアの亀裂から怨嗟が吹き出し、霧散する。</p>
<p>「もとより正義は矛盾したものだ。いずれは私も、歪みに飲まれるだろうが……それまでは、自らの信じる正義を貫き通す」</p>
<p>オーキスの体内に入り込んでいたダエモニアのコアは霧となって消失し、体躯から放たれていたどす黒いオーラもアストラルクスの中に溶けていく。<br />
シルヴィアは、選び抜いた至高の宝剣を、空想の鞘へと戻した。</p>
<p>「……どうした、殺さないのか？　お前に言わせれば、私は人殺しだぞ」</p>
<p>「私はタロット使いであって人殺しではない。お前の処遇はしかるべき機関に任せる」</p>
<p>立て膝の姿勢から崩れ落ちたオーキスは、背後にあった壁へもたれかかった。胸元から流れていたダエモニアの環流は、人間の血液に変わっている。オーキスの周囲に、赤い血だまりが広がっていく。<br />
弱々しく息を吐くオーキスは、シルヴィアの方を向いて小さく笑った。</p>
<p>「似ているな、ソフィアに。彼女も君のように、頑固な女だったよ。最後まで実験に反対していた」</p>
<p>シルヴィアは、忍ばせていたロケットを取り出す。くすんだ金色のロケットの中に、劣化しつつある男女の写真が入っている。</p>
<p>「……ソフィアの生家で見つけたものだ。このロケットは、お前が預かっておけ」</p>
<p>オーキスの眼は、胡乱に見開かれていた。<br />
視界にロケットを捉えることができたのか、それとももう光が失われてしまったのか、それはシルヴィアには分からない。<br />
オーキスの頭は、力なく垂れ下がった。</p>
<p>「それはできない相談だ。ダエモニアが消えた今、私の命運は決まっている」</p>
<p>コアが消失し、オーキスは人間の男性、ヨアンへと戻っていた。<br />
ダエモニア感染者を元の人間へ治療する。本来は不可逆とされたダエモニアの治療は、皮肉なことに、虫の息となった彼の身に起こってしまっていた。<br />
ヨアンは消え入りそうな声で、シルヴィアへ語る。</p>
<p>「シルヴィア、私を殺せ。制御不能のダエモニアになる前に、人の姿で……ヨアン・ドラクロワとして私を……殺せ……」</p>
<p>「…………」</p>
<p>シルヴィアは、答えなかった。<br />
だが、ヨアンは、シルヴィアの意志を汲んだかのように、語る。</p>
<p>「正義は、二つ同時には存在できない。光が影を作るように、正義があれば、そこには必ず悪がある……」</p>
<p>そして男は吐血し、地面に伏せた。<br />
血だまりはその場に広がり、ヨアンは赤い海の中へと沈んでいった。消え入りそうな声でシルヴィアへ語り続ける。</p>
<p>「私を殺して、お前が正義になれ……。正義のために殺すという罪を背負って、生きていけ……」</p>
<p>シルヴィアに対して呪いの言葉を吐く、それがヨアンにできる最期の抵抗だった。<br />
ヨアンは震える手を持ち上げ、シルヴィアの居場所へと差し向ける。<br />
血にまみれたオーキスの指先は、数え切れないほどの人間を殺してきた殺人鬼の手だ。だがそれは同時に、本気でダエモニアから人類を救おうとした正義のなれの果てでもあった。</p>
<p>シルヴィアは、自らの手を見る。<br />
呪いを受けても救い続けるという決意をまばゆい剣に変えて、全身を震わせて呼吸を続けるヨアンを見下ろした。</p>
<p>そして。<br />
シルヴィアはその日、悪を葬り正義となった。</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_09</title>
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		<pubDate>Wed, 09 Mar 2016 06:27:36 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[接近戦を得意とするシルヴィアに、オーキスはより間合いを詰めた超接近戦を仕掛けた。 ダエモニアのコアを取り込んだことで、オーキスは人間であったことなど微塵も感じさせない戦士へと変貌していた。俊敏なステップから、狂気と怨恨に [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>接近戦を得意とするシルヴィアに、オーキスはより間合いを詰めた超接近戦を仕掛けた。<br />
ダエモニアのコアを取り込んだことで、オーキスは人間であったことなど微塵も感じさせない戦士へと変貌していた。俊敏なステップから、狂気と怨恨に満ちた狂戦士の拳が、シルヴィアの懐に飛び込んでくる。</p>
<p>「動きが鈍いぞシルヴィア！」</p>
<p>「このッ！」</p>
<p>迫る拳に、刃を沿わせる。切断をイメージするもオーキスの拳は砕けず、シルヴィアの剣が欠けることもない。</p>
<p>互いの意志の強さが拮抗していた。</p>
<p>インファイトで立ち回るオーキスは、刃に受け止められた右ストレートをすぐにしまい、左のフックを打ち込む。打点を見切ったシルヴィアは、幅広の刃で拳を防ぐ。<br />
剣側面へのピンポイントな打撃は、刃をへし折るには充分だった。シルヴィアは使い物にならなくなった剣を投げ打ち、空想の鞘から新たな得物を展開。オーキスの拳を柄で受け止めながら、ストレートを放って延びきった腕や、蹴りを見舞った脚へ切り傷を付ける。<br />
しかし、傷口は体内に取り入れたダエモニアの因子によってすぐに塞がってしまう。コアを潰さなければ、オーキスを止めることはできない。<br />
無尽蔵の刃と、無限の再生能力がぶつかり合い、破片と飛沫を飛ばし合う。</p>
<p>「受け止めよ！」</p>
<p>短いステップでタイミングをずらしてオーキスが飛び込む。シルヴィアはそれをかわし、背後を取った。切っ先は背中を袈裟切りにしようとするも、振り向きざまに放たれたオーキスの裏拳に受け止められる。<br />
返す刃で放った斬撃はオーキスに白羽取りにされが、シルヴィアはすぐに剣から両手を離し、新たに生み出した刃で両腕に斬りかかる。だが、裂傷は瞬時に修復される。</p>
<p>「そうやすやすとは死なないか、さすがはタロット使いだな！」</p>
<p>そう言って口角を上げたオーキスは、左のジャブから、フェイントを織り交ぜた右ストレートを見舞う。激突する剣と拳。刃の破片をばらまきながら飛び退いたシルヴィアは、今度は両手に白銀の刃を展開。片方を突きの刃、もう片方を斬りの刃としてオーキスの喉元を引き裂いた。<br />
首の皮一枚でも繋がっていれば、オーキスの傷は再生してしまう。</p>
<p>「言え！　何が目的だ！　なぜこんなことをする！」</p>
<p>オーキスのラッシュを弾き、受け止めながらシルヴィアは叫ぶ。折られては新たな剣を生み出し、オーキスへと刀傷を負わせ続ける。たとえ再生しようともそうする以外に対処法はない。</p>
<p>「なぜだと？　貴様らが言えた義理か！」</p>
<p>コアを突こうとした剣はへし折られた。もう一方の手に握られた刃でコアを切り裂こうとする。だが、オーキスはバックステップで切っ先を回避。距離を取ったところで、シルヴィアは生み出した短剣を投擲、牽制する。<br />
オーキスは短剣を殴り飛ばし、一瞬で間合いを詰めた。</p>
<p>「正義の皮を被り、人間を殺すタロット使いの分際で！」</p>
<p>「あぐっ！？」</p>
<p>クイックモーションから、オーキスはシルヴィアの鳩尾めがけて拳を叩き込んだ。<br />
腹部に走った激痛は、アストラルクスに顕在するためのイメージを歪ませる。<br />
シルヴィアが弱ったとみるや、オーキスはコンビネーションを繰り出した。高速で繰り出されるジャブとストレート、ボディブローを浴びせて追い詰めていく。</p>
<p>「守るために殺すだと？　そんなものは貴様らの都合でしかない！　ダエモニアの治療法を探ることもなく殺すだけなら、貴様らは単なる殺人鬼だ！」</p>
<p>「お前と一緒にするなァッ！」</p>
<p>オーキスの拳を避け、渾身の力を込めて白銀の剣を叩きつけた。真正面から剣を受け止めたオーキスはバランスを失って吹き飛ばされる。<br />
腹部に受けたボディブローに、シルヴィアは地面に倒れた。呼吸を整えるシルヴィアの向こうでは、オーキスも同じく展望デッキに片膝をついていた。</p>
<p>「はァ、ハガァッ、グアアアアッ……！」</p>
<p>過呼吸を起こしたかのように咳き込むオーキスの体が、不気味に膨らみ始める。その異様な苦悶の叫びに、シルヴィアはかつての軍立病院での出来事を思い出した。<br />
ダエモニアのしこりが全身に侵食し、人間を強制的にダエモニアへと変える。以前と同じ現象が起ころうとした、その時だった。<br />
オーキスは注射器を取り出し、自らの腕にためらう様子もなく突き刺した。薬剤がオーキスの体内に注入されるに従って変容は徐々に収まり、膨れた肉襦袢のような体は、オーキス本来の姿に戻る。</p>
<p>「……これが私の研究の成果、ダエモニア抑制剤だ。一時的に肉体と精神のダエモニア化を抑制する。すなわち……」</p>
<p>呼吸を整えたオーキスは、目を剥いて拳を振りかぶる。</p>
<p>「これが私の正義だッ！」</p>
<p>拳の速さと重さが、以前よりも増している。<br />
気を引き締めたが白銀の剣は幾度となく折られ、穿たれる。だが、シルヴィアは諦めない。そのたびにイメージを繰り返し、空想の鞘から何度も剣を生み出す。<br />
殴打の軌道を読み取り、その動きをより最適に防ぐ白銀の剣を呼び出す。それは長剣であったり短剣であったり、時には細身のレイピアとなり日本刀や脇差、鎌へと姿を変える。<br />
最短手で突き出すオーキスを、最短手で白銀の刃が受け止める。絶え間なく激突し続ける両手と無数の剣は、打ち合わされるごとに周囲へ強力な衝撃波を発生させた。</p>
<p>「デュランダルッ！」</p>
<p>シルヴィアは白銀の騎士を召喚してオーキスを捕らえようとする。<br />
だが、客船を受け止めたことによる消耗は隠しきれなかった。デュランダルはオーキスに装甲を貫かれる。元より、オーキスの猛攻を防ぐため、シルヴィアは剣に意識を集中させていた。白銀の鎧を維持するだけの余裕は残されていない。</p>
<p>「知りたいなら教えてやる！　ダエモニアの研究は進んでいた！」</p>
<p>オーキスは打点のぶれない正確なジャブで剣をへし折り、次なる拳をシルヴィアの肩に叩き込む。</p>
<p>「対消滅現象には、ダエモニアの根源、ディアボロスタロットを変質させる可能性があった！　これならばッ！」</p>
<p>シルヴィアの顔面めがけてジャブが飛ぶ。シルヴィアは二本の剣を顔の前で重ねて壁を作るも、それらはたやすく砕け散った。<br />
白銀の光が割れた窓ガラスのように飛散する。</p>
<p>「苦しむ人々を救えた！　ダエモニアを根絶できた！　悲劇の淵にある人類にとって、これ以上ない福音となるはずだった！　それを潰したのは、レグザリオの駒ッ！」</p>
<p>よろけるシルヴィアに向けて、オーキスはジャブのコンビネーションから、渾身のストレートを放つ。</p>
<p>「貴様らタロット使いだ！」</p>
<p>直撃する瞬間、オーキスとシルヴィアの間に、デュランダルが割り込んだ。白銀の鎧はオーキスの拳をまともに食らって砕け、消滅する。<br />
しかし、その先にシルヴィアは居なかった。<br />
とっさにデュランダルを身代わりにしたシルヴィアは、上空へと飛び上がっていた。そのまま、直下のオーキスへ剣を突き立てる。</p>
<p>「はあああっ！」</p>
<p>落下点から飛び退いたオーキスに、シルヴィアは追撃を加える。コアへ向けての斬撃はすべて防がれるも、オーキスを遠ざけることに成功した。<br />
不利な間合いを取らせない。インファイトではなく、シルヴィアの剣に最適な距離をなんとか確保する。</p>
<p>「それほどの理想がありながら、なぜ人々をダエモニアにした！　人々を救うのが目的ではなかったのか！」</p>
<p>「その目的のためだ！　研究の発展に、人々の犠牲は不可欠だッ！」</p>
<p>激突はなおも終わらない。間合いを取らせんとするシルヴィアと、隙あらば懐へ潜り込もうとするオーキスの、距離を巡っての戦闘が繰り返される。<br />
時に懐へ潜り込まれ、時に遠ざける。磁石を裏表するように引き合い、遠ざけ合う一進一退の攻防が繰り広げられる。</p>
<p>「ふざけるな！　そんなもの、罪もない人々を殺す理由にはならないッ！」</p>
<p>シルヴィアの叫びに激高したオーキスは、捨て身の特攻を仕掛け、シルヴィアの首筋に掴みかかった。</p>
<p>「ぐはッ！？」</p>
<p>「違う！　私は、殺した分だけ進んでいる！　数百年もの間、殺すばかりで進歩のない貴様らとは、覚悟が、目的が！　すべてが違うッ！」</p>
<p>オーキスはシルヴィアの首根を片手で締め上げ、持ち上げた。シルヴィアはもがくも、すぐさま添えられたオーキスの両手に遮られる。</p>
<p>「私は血族として生まれ、世界のために犠牲になるタロット使い達を見て育った！　彼女らを変えたいと願った、人類を救いたいと励んだ。そしてようやく、治療の可能性が見えたのだ！　今はまだ仮説に過ぎないが、対消滅現象を実証できれば、貴様らとて悲惨な宿命を負わずに済むのだぞ！！」</p>
<p>シルヴィアの脳裏に『正義』の試練の記憶が蘇った。<br />
何人もの候補者を退けたことで身に受けた代償に何度も喘ぎ、苦しんだ。<br />
しかし、ソフィアや候補者達に送り出されたあの場所で、シルヴィアは自らの正義の本質を――それが一種の呪いであることに気づかされた。<br />
正義として救い、殺し続ける覚悟は決まっている。</p>
<p>シルヴィアは剣をオーキスの腕に突き刺した。隙をついて着地し、その場を飛び退く。</p>
<p>「……私は、『正義』として生きる覚悟を決めている。守るために殺すことになろうとも、それで人々を救えると信じている！」</p>
<p>シルヴィアの発言を聞くや否や、オーキスは再び地面に崩れ落ちた。<br />
先ほどよりもダエモニアの侵食が早い。全身を不規則に膨らませるダエモニアを黙らせるため、オーキスは二本目の抑制剤を腕に突き刺した。</p>
<p>暴発しそうだったオーキスの体は、再び人間のものに戻る。肩で息をする呼吸は少しずつ収まり、吐息はやがて聞こえなくなる。</p>
<p>不気味な静寂だった。<br />
身構えるシルヴィアの前で、オーキスがゆっくりと立ち上がる。血走った瞳からは、ダエモニアが体内を環流していることをうかがわせる黒い涙が流れていた。<br />
沈黙を破ったのは、オーキスだった。</p>
<p>「……笑わせるな。その程度の安い覚悟ならば……、偽りだらけの覚悟ならばッ……」</p>
<p>瞬間、オーキスはシルヴィアの懐に踏み込んだ。オーキスの得意とするインファイトの間合いから、強い怨嗟と憤怒、絶望を織り交ぜたストレートを放つ。<br />
その拳はもはや、ダエモニアそのものだった。</p>
<p>「消え失せろオオオオォッ！」</p>
<p>打撃はシルヴィアの顔面へ。<br />
直撃すればダエモニアにより死は免れない。<br />
避ける時間は残されていない。<br />
剣を延ばしても間に合わない。</p>
<p><a href="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/03/9db4dfec79c2073f05f07d28c532acd8.jpg"><img class="alignleft size-medium wp-image-756" src="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/03/9db4dfec79c2073f05f07d28c532acd8-424x600.jpg" alt="" width="424" height="600" /></a>すべてを悟ったシルヴィアは、同時に強くイメージした。<br />
拳を受け止める、もっともよい方法を。<br />
拳を、ダエモニアを、そしてオーキスそのものすら包み込むほどに強力な『正義』の意志を、形にしてしまえる方法を。</p>
<p>シルヴィアは、片手を上げた。<br />
そして、オーキスのストレートを、掌ひとつで受け止めた。</p>
<p>「……貴様ッ！？」</p>
<p>シルヴィアは、オーキスの手を握りしめたまま、語る。</p>
<p>「……ようやく理解できたよ。お前が理想とする正義をな」</p>
<p>シルヴィアの体じゅうから、ぼんやりと白い光が漏れ始めた。白銀の意志、『正義』の矜持が燦然と光り輝き、オーキスがまとう黒い負の感情を相殺する。</p>
<p>「だが、お前のやり方は――お前の正義は、私の正義に反している。だから私はお前を……私自身の正義で裁くッ！」</p>
<p>&nbsp;</p>
]]></content:encoded>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_08</title>
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		<pubDate>Fri, 04 Mar 2016 14:09:01 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[口火を切ったのは、霧依の放ったメスだった。片手で三本、両の手では六本になる刃を、血族ダエモニアの少女めがけて正確に投擲する。 「『執刀』開始だァッ！」 飛来するメスに、少女が反応。飛来する凶器を打ち落とすべく、手持ちの拳 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>口火を切ったのは、霧依の放ったメスだった。片手で三本、両の手では六本になる刃を、血族ダエモニアの少女めがけて正確に投擲する。</p>
<p>「『執刀』開始だァッ！」</p>
<p>飛来するメスに、少女が反応。飛来する凶器を打ち落とすべく、手持ちの拳銃で迎撃した。<br />
六発の銃弾は、ほぼ同時に撃ち出される。たった一発の発砲音であったにも関わらず、その場に居た誰もが、六発の銃声を確かに聞いていた。</p>
<p>意識が加速している。<br />
そして、世界が遅延を始めた。</p>
<p>メスと弾丸は、水の中を歩むようにゆっくりと飛ぶ。<br />
大気を引き裂きながら直進する刃と、ジャイロ回転を見せる弾丸は、激突軌道を変えることもなく、しばらく飛翔した後に衝突した。</p>
<p>克つのはメスか、弾丸か。<br />
その答えは、なめらかな断面を晒した弾丸を見れば明らかだった。ダエモニアの弾は六発すべてメスに両断され、あさっての方向へゆっくりと飛んでいく。</p>
<p>加速した時間の中で、ダエモニアの少女は飛び退くべく踏み込むも、体は動かなかった。少女の足元には、地中から延びた大量のカテーテルが絡みついていた。意志を持つかのように蠕動する幾本もの細い管が、執拗に少女を責め立ててその体の自由を奪っている。</p>
<p>少女にはもう、メスを避けることなどできない。<br />
六本のメスが四肢の継ぎ目を、首を、そしてコアである心臓にたどり着くまでのじれったいほどに長い時間が、少女の余命となった。</p>
<p>一方で、ヴァネッサは抜ききった剣を白木の鞘に収めた。<br />
眼前の少女を無視してまぶたを閉じ、思案する。</p>
<p>ここアストラルクスにおいては、世界の流れは誰もに平等とは限らない。<br />
その世界の遅れすらイメージの強さによるものだとすれば、加速を願えば願うほど、世界を周回遅れにできることになる。</p>
<p>そして開眼したヴァネッサは、さらに遅延した世界に居た。<br />
霧依の放ったメスは中空をほんのわずかに進む程度にまで減速している。<br />
ヴァネッサは、その場全員の時の流れを超越した。</p>
<p>「これが限界か……。完全停止とはいかんのが心残りだが」</p>
<p>残念そうに自嘲してから、ヴァネッサは大地を蹴った。<br />
加速しすぎて重たくなったアストラルクスを、ぬかるみを歩むように進む。<br />
ヴァネッサが接近しているにも関わらず、血族ダエモニアの少女は武器を構えようとはしなかった。<br />
いや、できなかったのだ。遅滞した世界に取り残されたままの少女に、限界まで加速したヴァネッサの動きなど知覚できようはずもない。</p>
<p>ヴァネッサは、無抵抗の少女へ一振りで切断した。<br />
だが、コアを切断したとしても、ダエモニアの消滅までにはタイムラグが生じる。ヴァネッサが元いた場所へ戻り、日本刀に付着した怨嗟を払って鞘に収めた頃になって、ようやく少女の切断面から飛沫が漏れ出した。</p>
<p>そしてヴァネッサと霧依は、正常な時間の運行の中に戻る。<br />
途端、二人の少女はそれぞれ消滅した。</p>
<p>「なーんだ、オーキスの技術も大したことないなぁ！」</p>
<p>「所詮は贋作。本物には敵わんだろうさ」</p>
<p>高らかに笑う霧依にそう独りごちて、ヴァネッサは振り向く。その背後に、横隊を形成したポーン駒ダエモニアが迫っていた。</p>
<p>「さて、ドクター。オペの続きを始めるぞ」</p>
<p>「そうだなァ。患者の苦しみを、癒やしてやらなきゃなァッ！」</p>
<p>摩天楼で仕切られた区画、巨大な道路をみっしりと埋めるダエモニアに、ヴァネッサと霧依は飛び込んでいく。</p>
<p>＊</p>
<p>客船のデッキに降り立ったシルヴィアを迎えたのは、五名のタロット使いたちだった。</p>
<p>「しっ……！　シルヴィア様ぁ～っ！」</p>
<p>泣き叫びながら抱きつくミレイユを撫でてから、シルヴィアは全員と顔を見合わせる。ルーシアの冷たい表情、程度こそ違えど瞳を潤ませるエレンと万梨亜の笑顔。そして思わせぶりに微笑むクリスティンの表情を見て、シルヴィアは告げる。</p>
<p>「心配をかけたな。無事、帰ってきた」</p>
<p>それぞれの「おかえりなさい」の声を受けて、シルヴィアはようやく、自分が元の世界へ――生と死の狭間でたゆたうアストラルクスへ――戻ってきたことを実感した。</p>
<p>「対消滅はどうだった？」</p>
<p>クリスティンの問いかけに、シルヴィアは襟を正して答える。</p>
<p>「実感はない、な。あれはおそらく、オーキスが作り出したディアボロスタロットのコピーと、私の『正義』がぶつかり合っただけの、不完全なものだ。ただ……」</p>
<p>「ただ？」</p>
<p>聞き返した万梨亜に、シルヴィアは柔和な顔で語った。</p>
<p>「自分を見つめ直す、いい機会にはなったよ」</p>
<p>シルヴィアがあの空間で見たものは、短い白昼夢だったのかもしれない。<br />
だが、それは過去に苛まれていたシルヴィアの迷いを晴らすには、充分すぎるものだった。<br />
すっきりとした顔を見せるシルヴィアの様子に、万梨亜は泣き腫らしたまま笑顔を浮かべる。そして、ミレイユと共にシルヴィアへ身を寄せた。</p>
<p>「お、おいおい……。そんなにもたれると倒れてしまうよ」</p>
<p>胸の中で震えるミレイユと万梨亜を優しく抱きしめ、シルヴィアは微笑んだ。</p>
<p>「あらあら、仲のいいこと。エレン、私たちもやっちゃう？」</p>
<p>「や、やるかよっ！」</p>
<p>「……嘘つき」</p>
<p>クリスティンの茶化すような提案に、エレンは真っ赤になって答えた。エレンの様子を見て、ルーシアはいつもの調子でため息をつく。<br />
その時だった。</p>
<p>「まだ仕事は終わっていませんよ、皆さん」</p>
<p>アストラルクスがひずみ、人型の渦を作り出す。空間の歪みは次第に凝固し、赤黒い衣装をまとったタロット使いが姿を現した。<br />
メーガンだ。</p>
<p>「来てもらいますよ、シルヴィアさん。オーキスを追い詰めて始末するためには、あなたにも協力してもらわねばなりません」</p>
<p>シルヴィアは、ミレイユと万梨亜を優しく取りなしてから、メーガンをにらみつける。<br />
オーキスの行動の元凶とも言えるメーガンは、おそらくこの事態の成り行きをすべて把握していたことだろう。<br />
何か言ってやらねばならないと思ったシルヴィアだったが、言葉を飲み込む。真実は、オーキスの口から語られねば意味がない。</p>
<p>「分かった」</p>
<p>シルヴィアの返事に、戦闘中のタロット使いたちの声がアストラルクスを伝って聞こえてくる。</p>
<p>『頼んだよシルヴィアっ！』</p>
<p>『あとでご飯おごって！』</p>
<p>『オーキスは船の展望デッキだ。ナビは任せとけ』</p>
<p>シャルロッテ、舜蘭、雫の声が聞こえる。それに混じって、言語化できないような嬌声をあげる霧依の叫び。そして、ヴァネッサが最後に語る。</p>
<p>『シルヴィア、お前はお前の正義をやりな。失敗した時は、私がなんとかしてやるよ』</p>
<p>力強い『皇帝』の言葉に、シルヴィアは「ああ」と短く返事する。<br />
その場のタロット使いたちの言葉を背に受け、メーガンに誘われながら、もはや形状をほとんど留めていない客船の展望デッキへ向けて走り出した。</p>
<p>＊</p>
<p>雫のナビ通り、オーキスは血族ダエモニアの少女を伴って展望室に居た。マンハッタンの摩天楼を眺めていたオーキスは、突然の闖入者に驚くこともなく、背中を向けて語る。</p>
<p>「君が生きているということは、私の実験は失敗したということか。シルヴィア・レンハート君」</p>
<p>シルヴィアとメーガンへ振り返ったオーキスは、不敵に笑う。</p>
<p>「ワンドエースは消えた。お前の計画とやらは、ここで終わりだ」</p>
<p>「そう結論を急ぐな。私にも、そこのタロット使いに聞きたいことがある」</p>
<p>オーキスは、懐から拳銃を取り出し、メーガンへと向ける。</p>
<p>「はて、私が何かしましたか？」</p>
<p>「やはり貴様だったか。懐かしいよ、吐き気を催す、そのすかした声……。あの時は声しか聞こえなかったが、ようやく私にも貴様が『見える』」</p>
<p>銃口を向けられたメーガンは、肩をすくませた。<br />
笑顔の仮面を貼り付けたまま、嘲笑するような口調で言い放つ。</p>
<p>「覚えがありませんね。あいにく、地下暮らしのモグラに語る名前など持ち合わせてはおりませんので」</p>
<p>「都合の悪いことは忘れたフリか、レグザリオの犬めッ！」</p>
<p>言い切るや否や、オーキスはメーガンへ向けて発砲した。<br />
メーガンは空間を歪ませ、弾丸の軌道を操作しようとする。だが、オーキスの放った弾丸は空間の歪みを無視して直進。純粋な直線軌道を描き、メーガンの耳元を掠めた。</p>
<p>「おやおや、これは分が悪いですね」</p>
<p>後れ毛を吹き飛ばされたメーガンは、耳元を手で拭う。<br />
異常なまでの怨念によって具現化されたそれは、絶対に狙った場所を撃ち抜く凶弾と化していた。</p>
<p>「次は貴様の肺に穴を開けてやる。ソフィアにやったように、苦しんで死ね」</p>
<p>二発目の銃声が響き、不可避の弾丸が放たれた。<br />
メーガンは空間を操作するも、軌道は逸れない。迫りくる凶弾が狙った場所へ飛ぶことを察したシルヴィアは、鞘から剣を抜いた。<br />
逸らせないなら、壊せばいい。<br />
白銀の切っ先が死を砕き、無数の破片へと変えた。</p>
<p>「……お前も諦めが悪いな」</p>
<p>「ああ、その通りだ。この程度は計算の範囲内でね」</p>
<p>オーキスは、傍らに居た血族ダエモニアの心臓へ手を突き刺した。苦悶に震えるダエモニアの少女の体内をかき回し、黒い怨嗟を吹き出し続けるコアを奪い取る。</p>
<p>「ワンドエースを失おうとも、私にはまだこれがある」</p>
<p>そしてオーキスは、掌の中で律動を繰り返す少女のコアを、自らの心臓に押し当てた。コアは黒い霧となって溶け出しながら、オーキスの体内へと取り込まれていった。</p>
<p>「自らダエモニアになる道を選ぶのか……！」</p>
<p>自らの両手を見つめたオーキスは、拳を作る。頑強に結ばれた指の隙間からは、ダエモニア特有の黒い負の感情が放たれていた。</p>
<p>「さあ、この私を止めてみろ。シルヴィア・レンハートッ！」</p>
<p>咆哮したオーキスは、拳を掲げて吶喊した。</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_07</title>
		<link>http://geneino.com/hakugin-novel/05_07</link>
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		<pubDate>Wed, 24 Feb 2016 11:40:52 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[マンハッタン島南岸の浅瀬を、客船は進む。大量のダエモニアが決起するための橋頭堡を築くため、浅瀬に船底を擦りつけ、桟橋を砕き、大型船の船着き場へと向けて航行を続ける。 機関室を破壊されようと、船体に大穴を開けられようと、船 [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>マンハッタン島南岸の浅瀬を、客船は進む。大量のダエモニアが決起するための橋頭堡を築くため、浅瀬に船底を擦りつけ、桟橋を砕き、大型船の船着き場へと向けて航行を続ける。<br />
機関室を破壊されようと、船体に大穴を開けられようと、船は止まる様子を見せない。<br />
コンクリートの岸壁、その向こうに見えるターミナルと巨大な摩天楼の群れは、すぐそばまで迫っていた。</p>
<p>船の先端に追い詰められた万梨亜ら四名は、三体の血族ダエモニアに釘付けにされていた。その背後で、ポーン駒のダエモニアが続々と上陸準備を進めている。デッキを飛び降りて、または船のハッチを開けて上陸し、マンハッタンを地獄へ変えるために。</p>
<p>「みんな逃げてっ！」</p>
<p>陸上で暮らす人々へ向けて万梨亜は叫ぶが、その言葉は船体を歪ませる轟音にかき消されてしまった。<br />
もはや誰にも対処できなかった。<br />
港湾の最奥部に、かろうじて原型を留めた客船が滑り込む。<br />
護岸を突き破り、陸地深くまで突入して大都会を強襲する。<br />
オーキスの描いた最悪のシナリオは、結実の日を迎えようとしていた。</p>
<p>その時だった。</p>
<p>「デュランダルッ！」</p>
<p>万梨亜らタロット使いだけでなく、船の上のダエモニアが同時に仰け反った。<br />
客船が急減速を始めたのだ。慣性の法則に従って、船の進行方向になぎ倒された一同は、デッキの手すりにしがみつく。<br />
そして、喫水線を見下ろして驚愕した。</p>
<p>「し、シルヴィア……ちゃん！？」</p>
<p>「シルヴィア様ですって！？」</p>
<p>客船の先端、アーチを描く舳先に、白銀の光を眩くたぎらせる騎士鎧と、その主人である少女の姿があった。</p>
<p>「すげえ……。アイツ、なんてロックだ……」</p>
<p>「……っ！」</p>
<p>タロット使い達は、眼下の光景に目を奪われていた。四つの視線を集める少女は、騎士鎧の名をもう一度叫ぶ。</p>
<p>「デュランダル！　押し切れぇッ！」</p>
<p>少女は騎士鎧は咆哮と共に、強大な力と閃光を放つ。もうひとつの太陽が生まれたと錯覚するほどの強烈な光が周囲を照らし出した。騎士鎧は膨大なエネルギーの塊となって、船体を飲み込む。</p>
<p>そして、客船は停止した。<br />
港湾の最奥部から、わずか数メートルの地点だった。</p>
<p>「止まった……！　止まりましたわ、シルヴィア様！　なんという奇跡！　さすがわたくしの騎士様――」</p>
<p>「バカ！　まだだ！」</p>
<p>ミレイユの言を遮ったエレンは、片舷のデッキを指さした。オーキスの目論見は寸前で制することができたものの、ダエモニアは客船から飛び降り、陸地へ、海へと身を投げていたのだ。<br />
ダエモニアの上陸を食い止めなければ、シルヴィアの起こした奇跡に価値はない。</p>
<p>「止めなきゃ……。ひとりでも多く助けなきゃ……！　フェニックスちゃん！　フェンリルちゃん！　お願い、もう少しだけ――」</p>
<p>召還の祈りを捧げる万梨亜に、この世界からは消失したはずの猫なで声が重なった。</p>
<p>「大丈夫よ。ここの人間は、もうみんな避難しちゃった後だから」</p>
<p>四人の前に現れたのは、なんとクリスティンだった。<br />
居合わせた一同の驚愕した顔を見て満足したのか、怪しげな笑みを浮かべている。</p>
<p>「ひ、ひぃっ！　クリスティンさんのオバケ！」</p>
<p>「お、お前……本当にクリスティンか！？　対消滅したんじゃなかったのかよ！？」</p>
<p>ミレイユとエレンの予想通りの反応に、より一層機嫌をよくしたクリスティンは、さも満足といった様子で口を開いた。</p>
<p>「こんなにカワイイ私がそう簡単に死ぬはずないじゃない。アレは、単なるデマ。オーキスの飼ってたダエモニアが『正義』だって分かったから、一番危険なシルヴィアに警告を送ったってワケ。『恋人の使い手が対消滅した』ってデマをレグザリオに流させてね」</p>
<p>「レグザリオがデマを流したんですか……？」</p>
<p>訝しむ万梨亜に、クリスティンは、護岸に佇む白銀の少女を見て呟く。</p>
<p>「どうも連中、今は永瀧で起こってる妙な事件にかかりっきりみたいでね。こっちにまで手を回してる余裕がなかったのよ。要は、利害が一致した、ってヤツね」</p>
<p>自慢げに語るクリスティンに、エレンが詰め寄る。</p>
<p>「それでアタシらまで騙すようなマネしたってことか……？」</p>
<p>「でも、そのおかげでオーキスの動きを早められたし、シルヴィアも助かったでしょ？　なに、もしかしてエレンは私が死んで悲しかったのかしら？」</p>
<p>クリスティンはエレンに顔を近づけ、妖艶に微笑んだ。言葉にならない声を上げてエレンは飛び退く。顔色を悟られたくないのだろう、エレンはそっぽを向く。<br />
クリスティンは落下するダエモニアの一団を見ながら、誰に聞かせるともなく声を上げる。</p>
<p>「こっちは大丈夫よ、隊長さん」</p>
<p>『んじゃ、始めるぞ』</p>
<p>待ち構えていたとばかりに短い通信がアストラルクスに響く。<br />
通信の主が誰であるかは、すぐに分かった。そして、タロット使い達は安堵に胸をなで下ろす。<br />
作戦は、すぐに開始された。</p>
<p>＊</p>
<p>船の片舷から身を投げたダエモニアは、泳いで護岸を目指していた。その内の一体、最初に護岸を登ったポーン駒は周囲の警戒を始めるも、遠方から飛翔した一発の弾丸にコアを射貫かれた。<br />
スナイパーの存在に勘づいたダエモニアの軍勢だったが、発砲のあった方角は、水中からは死角にあたる。橋頭堡を築くためには上陸し、スナイパーを無力化せねばならないが、一体また一体と、上陸した者から一方的に射殺される。</p>
<p>「へへっ、Ｄデイの仕返しだ！」</p>
<p>マンハッタンの摩天楼の屋上で、スナイパーライフルのスコープを覗き込みながらシャルロッテは得意げに叫ぶ。絶好の狙撃ポイントで、海から上がってきたダエモニアを次々と消滅させている。<br />
タロットの力で作り出したライフルは、バレルが赤熱することもない。その意志が続く限り、引き金を引けば無尽蔵に弾丸を放つ。だが、いかにリズミカルな狙撃で無駄玉のない『最適解』を繰り返しても、それだけではダエモニアの物量に対処しきれない。<br />
シャルロッテは、同僚に通信を入れた。</p>
<p>「舜蘭、白兵戦用意！」</p>
<p>『らじゃー！』</p>
<p>陸上に上がったポーン駒ダエモニアは、シャルロッテの射線から身を護るため、仲間を盾にしながら戦線を前へ前へと推し進める。飽和し始めたダエモニアは己の体を粘土のように溶解させ、船体へと上陸橋を延ばし始めた。<br />
だが、その橋は完成を待たずして、物陰から飛び出した少女に打ち壊された。<br />
舜蘭だ。</p>
<p>「石橋は叩いて壊すものだしね！」</p>
<p>舜蘭は、自らにダエモニアの銃口が向いていることなど気にも留めず、地上へ橋を架けようと変形するダエモニアの群れに飛び込んだ。延ばされる道を、シャルロッテの障害となる即席のバリケードやトーチカを、拳ひとつで粉々に粉砕する。</p>
<p>「あ～、お腹すいてきた……。これ終わったら経費で食べ放題していい？」</p>
<p>『食費は経費になりません！　ご自身のお財布から捻出しなさい！』</p>
<p>舜蘭の独り言に割り込んだマルゴットもまた、この迎撃作戦に参加していた。<br />
ただし、彼女の役割は少々他のタロット使い達とはその趣を異にする。</p>
<p>マルゴットは、アストラルクスではなく、物質世界に居た。<br />
マンハッタンとアメリカ本土を繋ぐ橋の上。車道を塞ぐように停車させたバスを背後に、いらだつ大勢の一般市民の前でなぜか仁王立ちしていた。</p>
<p>「お嬢ちゃん困るよ、大事な商談があるんだ！」</p>
<p>「誰の許可で通行止めしてるのよ！　早く通さないと訴えるわよ！」</p>
<p>人々は、車道のど真ん中に立ち尽くすマルゴットに罵詈雑言をぶつけていた。それでもマルゴットはその場から一歩も動かない。<br />
なぜなら彼女もまたタロット使い。<br />
一歩たりとも戦場へ近づけないという強い意志をもって、何も知らない人々を堰き止めているのだ。</p>
<p>「だからもう少しだけ辛抱なさってください！　工事はすぐ終わりますから！」</p>
<p>「工事なんてしてないじゃない！」</p>
<p><a href="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/02/05_07.jpg"><img class="alignleft size-medium wp-image-743" src="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/02/05_07-424x600.jpg" alt="" width="424" height="600" /></a>口汚く罵る人々は、押し返しても押し返してもキリがない。<br />
やがて人々はマルゴットを押しのけ、バスで作ったバリケードをよじ登ろうとする。だが、マルゴットは衣服も髪もボロボロにしながら、必死に人々を押しとどめた。<br />
橋を渡りたい人々と、橋を渡らせる訳にはいかないマルゴットの泥沼の戦いは、アストラルクスの戦闘が終わるまで続くのだった。</p>
<p>『どうして私だけこんな役割なんですかぁ～っ！』</p>
<p>マルゴットの悲鳴混じりの通信は、霧依の耳を素通りした。<br />
それもそのはず、霧依とヴァネッサは、アストラルクスで二体の血族ダエモニアと対峙していたからだ。<br />
四体居た血族ダエモニアのうち、最初の一体はルーシアが命からがら撃破した。<br />
三体となった彼女らは混乱に乗じて行方をくらましていたが、そのうちの二体が、『皇帝』と『吊られた男』の目の前に居る。</p>
<p>「血族ダエモニアかぁ～！　オーキスの開発した技術を突き止める絶好の機会じゃないかぁ～！　欲しいなぁ、欲しいなぁサンプルッ！」</p>
<p>「分かってるだろうが、サンプル回収は禁止だ。ちゃっちゃとトドメを刺して仕事を終えろってのがレグザリオの指示なんでな」</p>
<p>瞳をらんらんと光らせる霧依に、ヴァネッサが釘を刺す。<br />
しかし、霧依はそんなことはお構いなしといった様子で、着込んだ白衣の裏側からメスやカテーテルをジャラジャラと取り出した。</p>
<p>「じゃあ解剖はいいのか！？　人体実験は！？　ロボトミーは！？」</p>
<p>「はぁ……。……好きにしろ」</p>
<p>不気味に笑う霧依と、説得を諦めたヴァネッサは、それぞれの得物に手を掛けた。</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_06</title>
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		<pubDate>Fri, 19 Feb 2016 04:07:02 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[少女は、シルヴィアに馬乗りになり、執拗に首を絞め続けていた。 青白くなったシルヴィアの双眸は虚ろに見開かれ、四肢は地面に投げ出されている。その表情には、もはや生気など微塵も感じられない。 シルヴィアは、その時確かに死んだ [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>少女は、シルヴィアに馬乗りになり、執拗に首を絞め続けていた。<br />
青白くなったシルヴィアの双眸は虚ろに見開かれ、四肢は地面に投げ出されている。その表情には、もはや生気など微塵も感じられない。<br />
シルヴィアは、その時確かに死んだ。</p>
<p>――はずだった。</p>
<p>シルヴィアの指先が、かすかに動く。その両手は、ゆっくりと持ち上がり、自らの首筋へ向かって延ばされていく。<br />
少女はさらに強く、首の骨を折らんとばかりに絞め付けた。だが、シルヴィアの動きが留まることはない。<br />
震える指先は、とうとう自らの首へ。少女の手の甲に深く爪を立ててかきむしり、堅く密着していた少女の掌へ指を滑り込ませ、気道を奪い返す。<br />
わずか指一本分に過ぎない隙間を、堰き止められていた生気が流れた。引き離されていた精神と肉体が、このときようやく繋がった。</p>
<p>そして、シルヴィアの虚ろな瞳に、光が戻る。<br />
幾重ものヴェールに覆われてぼやけていたシルヴィアの視界は、幼きドッペルゲンガーの姿を捉えた。</p>
<p>シルヴィアは直感した。<br />
蘇ったのだ。戻ってきたのだ、と。<br />
そして、シルヴィアの意識下で生への渇望が目覚めた。<br />
輝きを取り戻した『正義』が、死を否定し、生を選択する。決断をした途端、息ができない苦しみと、ドッペルゲンガーへの生理的な嫌悪が沸き上がってくる。<br />
だが、その程度のものでは、シルヴィアの決意はねじ曲がることはない。</p>
<p>彼女には、彼女にだけは負けられない。<br />
四肢に力に込め、ドッペルゲンガーを引き剥がすべく暴れた。無闇に暴れるなど、シルヴィアの美意識には反する行為だが、そうするより手立てはない。<br />
シルヴィアが手を、そして足を絡ませのたうち回るうちに、少女はバランスを崩す。首筋の拘束が緩んだ間隙を縫って少女を振り払い、シルヴィアは再び舞台に立つ。<br />
スポットライトは、シルヴィアに落とされた。</p>
<p>「……お前のおかげで、目が覚めたよ」</p>
<p>シルヴィアはゆるやかに息を吐きながら、自分に、そして眼前の少女へ言い聞かせる。<br />
全身に染みこんだ気だるさを制し、抜刀。少女も同じく剣を取った。<br />
瞬く間に生み出された二本の剣が、スポットライトの中で交差。激しい衝突によって、黒銀の剣は塵芥となって霧散した。<br />
武器を破壊された少女は、新たな剣を空想の鞘から抜き、再びシルヴィアに斬りかかる。だが、ドッペルゲンガーの生み出した刃はぶつかり合うごとに形を崩し、無数の破片となって降りそそぐ。<br />
少女はそのたびに刃を取り出すも、幾度繰り返しても変わらない。黒銀の破片が宙に舞い、スポットライトに照らされて輝いた。</p>
<p>もう黒銀の剣では、白銀の刃に打ち克つことはできない。<br />
少女は剣戟での一騎打ちを止め、黒銀の騎士鎧を召喚する。現れるとともに放たれた拳が迫る刹那、シルヴィアはイメージする。</p>
<p>硬質で鋭利。強力な騎士鎧すら両断する刃。<br />
想いを力に変えることのできるタロット使いに不可能はないと念じ、タイミングを合わせて拳に剣を沿わせた。</p>
<p>その瞬間、願いは叶えられた。<br />
まるでそれは、壁に硝子細工を打ち付けるように、拳は無数の破片に変わった。片腕を失った騎士は抵抗を見せるも、シルヴィアの切っ先はそれを上回る速さで奔った。<br />
黒銀の甲冑は、肩口と胸元を切断され、消える。<br />
少女は再度騎士鎧を召喚したが、今度はデュランダルが迎え撃つ。巨躯同士が互いの拳を打ち合わせると、黒銀の鎧は原型を留めないほどに潰され、耳をつんざく轟音とともに瓦礫と化した。</p>
<p>「何度やっても同じだ。お前に、私は倒せない」</p>
<p>問いかけたシルヴィアに、少女は再び黒銀の鎧を呼び出すことで答えた。ダエモニアができる唯一の意思表示とともに、少女はなおも間合いを取る。</p>
<p>「そのようね。さすが『正義』の使い手。同族として誇らしいわ」</p>
<p>その時、何者かの声が舞台全体に響いた。<br />
そして、眼前のドッペルゲンガーが姿を変える。再びの変身に身構えるシルヴィアの前に、イギリスで見つけた写真の面影を残す、妙齢の女性が現れた。</p>
<p>「……ソフィア・レンハートだな？」</p>
<p>誰何したシルヴィアに、女性はどこか困ったような笑みを返す。</p>
<p>「少し違うの。私は、ヨアンの記憶が作り出した存在。この子……ワンドエースの中に流れ込んで蓄積していた、ソフィア・レンハートの幻影よ」</p>
<p>「ならば、お前も同罪か」</p>
<p>「……ええ。結果的には、いくつもの悲劇を招くことになってしまったから。その責任は、ヨアンだけが負うべきものではないわ」</p>
<p>「ダエモニア研究が何をもたらしたのか、説明してもらおうか」</p>
<p>シルヴィアの詰問に、ソフィアの幻は首を縦に振って語り始める。</p>
<p>「私たちはかつて、レグザリオの元でダエモニアを研究していた。人工的に生み出したダエモニアを制御下に置いて、彼らの生態を把握しようとしたの」</p>
<p>「人工ダエモニアなど、バカげたことを……」</p>
<p>「……ええ。そうでもしないと、本当にこの世界をダエモニアの脅威から救うことはできなかったから」</p>
<p>ソフィアの発言に信憑性はない。<br />
だが、その語り口はシルヴィアにはウソをついているように思えなかった。抵抗の意志はないと判断したシルヴィアは、剣とデュランダルを納め、幻影が語る真相に耳を傾ける。</p>
<p>「レグザリオは、ダエモニアを撲滅するという目標を掲げて、タロット使いの血族を集めた。そうして出会った私たちは、寝食を忘れて研究を進めたわ。人種も言語も違っていたけれど、想いはダエモニアの撲滅で一致していたから」</p>
<p>ダエモニアを知覚できるのは、血族以外に居ない。<br />
必然的に、ダエモニア研究には彼ら血族の協力が必要となる。</p>
<p>「そして、私たちはひとつの仮説にたどり着いた。ダエモニアの元を断つ可能性を秘めた、不可思議な現象。それが『対消滅現象』――」</p>
<p>「教えてくれ。『対消滅現象』とは何なんだ」</p>
<p>シルヴィアの問いに、ソフィアは説明を中断した。<br />
そして、無念さをにじませながら、ぽつぽつと語り出した。</p>
<p>「……エレメンタルタロットとディアボロスタロットの邂逅によって起こるとされる現象よ。でも、未曾有の出来事が起こることは予想できたけれど、それ以上のことは分からなかった。だから、賭けることにしたの。人工的にこの子――ワンドエースを生み出して、擬似的に対消滅を発生させようとした。その矢先に……」</p>
<p>シルヴィアは、クリスティンから聞かされた地下の研究施設を夢想する。<br />
社会から隔絶された空間で、ダエモニアを研究するソフィアと、若き日のオーキスを。<br />
制御下にあったはずのダエモニアが突如暴走し、施設を破壊する様子を。<br />
そして、何もかもを破壊し尽くしたメーガンの張り付いた笑みを。</p>
<p>発言をためらうソフィアに代わり、シルヴィアが続ける。</p>
<p>「ワンドエースが暴走した。レグザリオはタロット使いを派遣し、研究にまつわるすべての証拠を破壊させた。だが、ヨアンとワンドエースは死地を抜け出し、やがてオーキスとなって潜伏しながら、世界を操っていた」</p>
<p>「それを知っているなら、説明は不要ね。とにかく、当時の私たちは『対消滅現象』について何も掴めなかった。もしかしたら、こうしてあなたと会話をしていることがそうなのかもしれない、くらいに」</p>
<p>シルヴィアは思う。そうだとしたら、なんと救いのない現象だろうか。<br />
だが、シルヴィアは悲しみとも憐れみともとれない言葉を飲み込み、ソフィアに語りかける。</p>
<p>「いいのか、私に話しても。仮にもお前はオーキスの一部だろう」</p>
<p>その言葉で、ソフィアを形取っていたワンドエースは、苦悶に歪む幼少期のシルヴィアとなって顕現する。だが、その姿は長くは保たない。人型は粘土のように、潰れては延びて、再びソフィアが目の前に現れる。</p>
<p>「私は、幻影だから。ヨアンの良心が作り出した幻で、ワンドエースが消したがっている存在。でも、もう長くはないみたい。あの人のやり方に、愛想が尽きたからかしらね」</p>
<p>苦笑しながら告げるソフィアの体は、膨らんでは萎んでを繰り返していた。<br />
ワンドエースを制圧する力は、もうわずかしか残っていないのだろう。<br />
姿を現そうとするワンドエースを制し、ソフィアは語った。</p>
<p>「シルヴィア、この子は私が連れて行く。だから、お願い。無限に続く復讐の苦しみから、彼を救ってあげてほしい」</p>
<p>粘土のように変形するソフィアの要請に、シルヴィアは俯いた。<br />
自分の『正義』では、殺す以外に選択肢がない。<br />
ヨアンを救うことは、殺すことによってしか叶えられない。</p>
<p>果たして、それが救うことなのか。<br />
それを救いだと断言してよいのか。</p>
<p>「また悩んでるの？　いい加減堂々巡りしてないで、とっとと仕事に戻りなさいよ」</p>
<p>その言葉は、ソフィアとは別人の声だった。<br />
顔を上げたシルヴィアは、ソフィアの周りに、かつての候補者達の列を見る。<br />
正義の試練を思わせる少女達の列の中から、鮮血のように赤いドレスを着た女がシルヴィアへ向かって吐き捨てた。</p>
<p>「どんなに悩んだって、あなたには殺して救うことしかできないの。だからまあ、これからもせいぜい救い続けなさいよ。もちろん、これは私たちからの、呪いの言葉だけどね」</p>
<p>候補者の女は、シルヴィアをにらみつけてから、懲りたように微笑む。<br />
まだ訓練など知らない、あどけない少女同士だった頃に見た面影に、シルヴィアは自然と笑みを漏らしていた。</p>
<p>『正義』は、彼女らの犠牲の下に成り立っている。<br />
ならば自分は、彼女らが夢見た理想を叶え続ける存在として、人々を救い続けよう。<br />
たとえそれが、『正義』のもたらす矛盾の呪いであったとしても。</p>
<p>シルヴィアは、候補者の女に、他の少女達に、そしてソフィアに向き直って告げた。</p>
<p>「分かっているさ」</p>
<p>言い終えたシルヴィアは、再び温かい輝きの中に没した。</p>
<p>&nbsp;</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_05</title>
		<link>http://geneino.com/hakugin-novel/05_05</link>
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		<pubDate>Sat, 13 Feb 2016 01:37:22 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[目を覚ましたシルヴィアは、煉瓦造りの回廊の中に立っていた。 果てなく続く隘路は、どこまでも直線に伸びている。壁に備え付けられた松明の明かりが、通路を点々と照らしていた。 先ほどまで居たはずの『上位の世界』。そこで首を絞め [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>目を覚ましたシルヴィアは、煉瓦造りの回廊の中に立っていた。<br />
果てなく続く隘路は、どこまでも直線に伸びている。壁に備え付けられた松明の明かりが、通路を点々と照らしていた。</p>
<p>先ほどまで居たはずの『上位の世界』。そこで首を絞められて以降の記憶がなかった。<br />
とすると、この無限にも続く回廊が意味するところはそれしかない。</p>
<p>「さしずめ、臨死体験か……」</p>
<p>シルヴィアは敗北した。<br />
これまで築き上げてきた正義と存在意義を、あろう事か自分自身に奪われた。<br />
正義を為し続けると宿命づけたにも関わらず、その正義が誤りであり、もう剣を振るうことすらできなくなってしまった。<br />
正義の上澄みが枯れ果てた今、罪の意識だけが茶葉のように沈殿している。</p>
<p>シルヴィアは、暗闇へと続く細い回廊を進むことにした。<br />
振り返って後戻りすれば、元の世界へ戻れるだろう。その時、確かにそう思ったが、振り返ることはなかった。</p>
<p>戻る必要などない。<br />
愚かな敗北者には、死が似合いだ。</p>
<p>脳裏に沸き上がったわずかな希望すら、諦観の念が瞬く間に塗りつぶす。<br />
絶望の足音が、煉瓦の回廊に虚しく響いていた。</p>
<p>『無駄なのだよ、お前達タロット使いの働きは。元を絶てない限り永遠に続く、ただの徒労だ』</p>
<p>力なく歩みながら、オーキスの言葉を反芻する。<br />
あの時、シルヴィアは反駁しようとした。しかし同時に、オーキスが言うような無力感を感じたのも事実だった。</p>
<p>何をやったところで無駄。<br />
結局、誰も救えない。</p>
<p>思えば、『正義』のタロットを継承した時から、二律背反を抱えていたのかもしれない。<br />
『救う』ことは『苦しまずに殺す』こと。シルヴィアは、エレメンタルタロットの力で人間を救う『正義』が、そもそも矛盾していることに気づいていた。<br />
そうした矛盾を『正義』であり続けることで必死に否定してきたが、小さな狂いは積もり積もって大きな歪みとなる。</p>
<p>「人間を救うなど、もう不可能だな……」</p>
<p>そう自嘲して、シルヴィアは歩みを進める。<br />
一歩ごとに死の色が濃くなり、希望はそれに反して色あせていく。<br />
やがて世界からも色彩が失われ、濃淡だけになった回廊の果てにひときわ黒い扉が姿を現した。<br />
二対のかがり火に照らされたあの扉の向こうには、死が待っている。直感がそう告げていた。</p>
<p>だが、扉の前には人影があった。<br />
遠目に見覚えのあるその姿は、一歩近づくごとにはっきりと認識できた。モノクロームの世界でも、艶めくグレーの髪。折り目正しく清潔感のある服装。<br />
それは、幼少期のシルヴィアだった。<br />
幼い自分は、扉の門番であるかのようにシルヴィアの前に立ち、告げる。</p>
<p>「ねえ、幸せ？」</p>
<p>聞き覚えのある問いに、シルヴィアは思わず身構える。だが、目の前の彼女は少女らしい、無垢な表情を浮かべた。それが自らのドッペルゲンガーとは別の存在だと理解したシルヴィアは、質問に答える。</p>
<p>「幸せなど求めていない。自らの過去の過ちを棚に上げて、幸せを求めるなど許されない」</p>
<p>シルヴィアは、『正義』となるため他の候補者を殺した。タロット使いになってからは、救おうとしたが見殺しにしてしまった人々や、殺すしか救う方法がない人々も居た。<br />
たとえその行為が必要悪だったとしても、それは『正義』に反している。</p>
<p>「じゃあ、何のために生きていたの？　その人生に意味はあったの？」</p>
<p>幼い自分は、さらに質問を重ねた。</p>
<p>「あなたは、シルヴィア・レンハートは何がしたかったの？」</p>
<p>自らを見透かしたような質問に、シルヴィアは答えに窮する。</p>
<p>「わ……。わた、し……は……」</p>
<p>舌がもつれ、言葉が喉に詰まる。<br />
だが、幼い自分は訴追をやめない。物言わぬ双眸は、喉に引っかかった本音が吐き出されるまで、シルヴィアを見つめていた。</p>
<p>「私は……世界を救いたかった……。救い続けることで、過ちを精算しようとした」</p>
<p>「じゃあ、どうして諦めるの？　振り向けば戻れると分かっていたのに、そうしなかったのはなぜ？」</p>
<p>「……叶わなかったからだ。救うことも正義も、矛盾していた。私はもう、過去の咎を受けて――」</p>
<p>死ぬしかない。<br />
その一言は、シルヴィアの口を出ることはなかった。<br />
幼い自分が、シルヴィアを突き飛ばしたのだ。煉瓦の床に腰を落としたシルヴィアに、少女は宣言する。</p>
<p>「……私は、あなたみたいに諦めない。そんなふうに簡単に、死を受け入れたりしない」</p>
<p>強い意志の宿る声だった。自らの信念を貫くという信念が、固く結んだ口元に現れている。<br />
どこか懐かしい、忘れてしまっていた思いが、シルヴィアの心臓を鷲掴みにする。</p>
<p>「ここを通りたいのなら、剣を取りなさい。諦めと恐怖に支配されたあなたになんて、正義は絶対に負けない」</p>
<p>正義の少女は、剣を二本取り出した。そのうちの一本を握り、もう片方をシルヴィアの足元に放り投げる。落下した剣は甲高い金属音で回廊を震わせ、幾重ものこだまとなって駆け抜ける。<br />
その一言で、シルヴィアはようやく少女の正体に気づいた。</p>
<p>「お前は、あの頃の私か……」</p>
<p>少女は首を振らなかった。<br />
だが、双眸に宿った強い意志を見れば、その正体など誰何するまでもない。<br />
彼女は、シルヴィアが温め、育んできた『正義』の意志だ。決して諦めることなく、恐怖と絶望の淵にいる人々を際限なく救うという、シルヴィアが忘れていた正義の理想そのものだ。</p>
<p>その途端、シルヴィアの視界が開けた。<br />
モノクロームだった世界は騒がしいほどに色めきたつ。煌々と灯るかがり火は鮮やかに燃え、その後方にある漆黒の扉をまばゆいばかりの光で塗りつぶした。<br />
もう、死はなくなった。</p>
<p>「あなたの正義は……。白銀の意志は、子どもの頃から変わっていない」</p>
<p>正義とは、悪をくじき、弱きを救える限りに救う者。<br />
そこに、諦めを差し挟む余地はない。ただ一心不乱に、窮地にある人間をひとりでも多く救い出す。それこそが過去の罪滅ぼしであり、未来まで負い続ける責任だ。<br />
諦観や無力感から生じた矛盾や二律背反は、理想論で覆い尽くしてしまえばいい。</p>
<p>諦めることなく、正義の理想を追い続ける。<br />
泥にまみれていたシルヴィアの白銀の意志が、輝きを蘇らせた。</p>
<p>「私は、こんな簡単なことで悩んでいたのだな……」</p>
<p>シルヴィアは立ち上がり、まとわりついている埃を払った。長い年月の間に積み重なった諦めを落とすように、丹念に身支度をする。<br />
その時不意に、背後から誰かの声が聞こえた。</p>
<p>『助けて、シルヴィアちゃん……』</p>
<p>振り返った先に、声の主の姿はない。<br />
だが、細い回廊の奥で、弱々しい光が灯るのを見た。</p>
<p><a href="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/02/05_05.jpg"><img class="alignleft size-medium wp-image-719" src="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/02/05_05-424x600.jpg" alt="" width="424" height="600" /></a>戻らねばならない。<br />
戻って、救い続けねばならない。</p>
<p>「次に会った時は、穏やかに迎えてくれよ」</p>
<p>シルヴィアは目の前の少女に、そして自分に言い聞かせるように告げる。<br />
相変わらずの不器用な笑顔だが、それが精一杯の餞であることをシルヴィアは知っている。今度会った時は、自然な微笑み方を教えてやろうなどと考え、踵を返した。</p>
<p>小さな光に向かってシルヴィアは歩き出す。<br />
回廊を進むごとに、奥の光は強くなる。シルヴィアの足は自然と早歩きになり、駆け足になる。声は聞こえないが、その光の向こうに何かが待っているという確信が、シルヴィアの心を急かしていた。<br />
小さな星明かりのようだった光は、今や回廊全体を真白に染めていた。上下も左右もない白い通路を、シルヴィアは全速力で走り抜ける。そして目を眩ませるような輝きの中へ、シルヴィアは飛び込んだ。</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_04</title>
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		<pubDate>Thu, 04 Feb 2016 06:06:09 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[オーキスを追いかける万梨亜を阻んだのは、客船の通路にひしめくダエモニアだった。チェス駒のダエモニアは自らの身を組み上げてバリケードを作り、オーキスを逃がすための時間稼ぎを行っている。 立ち往生する万梨亜の元に、ミレイユが [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>オーキスを追いかける万梨亜を阻んだのは、客船の通路にひしめくダエモニアだった。チェス駒のダエモニアは自らの身を組み上げてバリケードを作り、オーキスを逃がすための時間稼ぎを行っている。<br />
立ち往生する万梨亜の元に、ミレイユが駆け寄った。</p>
<p>「万梨亜さん！　オーキスは！？」</p>
<p>「それがっ……！　きゃっ！？」</p>
<p>突然地面が揺れ、万梨亜は思わず傍らのフェンリルに体を預ける。<br />
揺れはその後小刻みな振動となり、それまでは聞こえなかった低いうなりと船体そのものが軋む不気味な音が万梨亜達の耳に届く。<br />
そこに、エレンとルーシアの声が聞こえてきた。</p>
<p>『ヤベーぞ！　陸が見える！』</p>
<p>『船を停めないと、みんな死ぬ』</p>
<p>通路の窓から外を見た万梨亜は、絶句した。<br />
客船は速度を増していた。船の進行方向には陸地が見え、アメリカ東海岸にそびえるいくつもの摩天楼が、水平線の彼方にその姿を伸ばしている。</p>
<p>「……やることは決まっていますわね？」</p>
<p>ミレイユと万梨亜は互いに頷きあう。<br />
万梨亜達が耳にした低いうなりは、船を突き動かす発電機が出力を上げる音であった。設計限界を超える加速で船体は軋み、その揺れは次第に大きくなっている。</p>
<p>「ダエモニアを上陸させてはいけません！　ミレイユちゃん！」</p>
<p>「もちろんですわ！」</p>
<p>ミレイユは盾をまとい、バリケードの銃眼から放たれる弾丸を防ぎながら突進した。ダエモニアの壁は積み木を崩すように崩落し、即席の障壁に穴が開けられる。</p>
<p>「このままつっこみますわよ！」</p>
<p>盾をフェンリルの前方に展開し、背中に万梨亜とミレイユを乗せてフェンリルが疾走した。通路に築かれた幾重もの障壁を破り、果敢に突き進む。</p>
<p>「急いで、フェンリルちゃん！」</p>
<p>万梨亜の呼びかけに喉を鳴らし、巨躯が通路を駈ける。縦横無尽に張り巡らされた通路を上へ下へ、エレベーターシャフトを降下し、剥きだしのパイプが張り巡らされたエリアに到達した。<br />
機関室。ダエモニアの巣窟と化した船を動かすこの場所を破壊すれば、少なくとも船は止まるはずだった。</p>
<p>「いきますわよ！　せーのっ！」</p>
<p>機関室へと続く扉を打ち壊すため、ミレイユが盾を思念によってより硬質化。合図に従ってフェンリルが四本の脚に溜めた力を解放し、扉にぶつかろうとしたその時だった。<br />
突如、機関室の扉が爆発した。<br />
閃光と、衝撃を伴う爆音。膨大な熱が万梨亜達に襲いかかる。</p>
<p>「どっ、どういうことですのっ！？」</p>
<p>ミレイユが展開させていた盾で事なきを得たふたりだったが、周囲のダエモニアには爆風を遮る術はない。爆炎が消えると、機関室はおろかその周囲は根こそぎ吹き飛ばされており、ぽっかりと大穴が開けられていた。</p>
<p>「これは、物質世界での爆発……？」</p>
<p>大爆発が物質世界で起こったことを察知した万梨亜に、アストラルクスの空間を伝って通信が聞こえてきた。</p>
<p>『ふ～むふむ、さすが世界最大級の民間船。対艦ミサイル一発じゃ沈まないか！　じゃあ二発目、三発目っとな』</p>
<p>「雫ちゃんですか！？」</p>
<p>『ああそうとも！　《イージスの盾》をハックできる天才とは私のこと！　ってことで、もう二発ほどハープーンが飛んでくから退避よろ～』</p>
<p>短い通信の後、更なる爆発音が全身を震わせた。<br />
高い天井を見上げて、万梨亜は愕然とする。船体の上部構造体が、ものの見事に吹き飛ばされていた。</p>
<p>『おい雫テメエ危ねえだろ！　アタシらを殺す気かァッ！』</p>
<p>エレンの怒気荒い通信が聞こえるも、雫は応答しない。その代わりに再び船体が激しく揺れ、船体を軋ませる金切り声に混じって、海水が流れ込む不気味な音が聞こえる。</p>
<p>『沈没する……』</p>
<p>「じょ、冗談じゃありませんわ！　わたくし、泳げませんのに！　万梨亜さん、泳げる召喚獣を出してくださいまし！」</p>
<p>「そ、そういう問題じゃないと思いますけど……」</p>
<p>ミレイユは万梨亜の肩を揺らすも、一向に船は沈む様子がない。<br />
船体に開けられた大穴は、ダエモニアが築き上げたバリケードによって塞がれていた。物質世界の法則に従えば沈没するはずの客船は、何者かの強い意志によって沈没を免れている。</p>
<p>『オーキスは後回しだ！　お前らも手伝えっ！』</p>
<p>機関室が破壊されても、船体に大穴が空いても止まらない。<br />
ならば、少しでもダエモニアを減らさねばならない。<br />
万梨亜達はデッキへ急ぐ。</p>
<p>　　　　　＊</p>
<p>陸地と摩天楼の街並みは、すぐそばまで迫っていた。だが、船が沈むことはない。なおもその速度を増し続け、ダエモニアもその数を増していく。<br />
船上を奔る稲光と、それに交差する黒い死神の動きは鈍くなっている。</p>
<p>「焼き尽くしちゃってください！」</p>
<p>近くに生存者が居ないことを確認した万梨亜が叫ぶと、フェニックスがデッキの上のダエモニアを灼熱の火焰で塗りつぶした。コアごと焼き溶かすような清めの炎も、物量を前にすると分が悪い。焼け野原には次から次へとダエモニアが湧き出て、燃えさかる大地から、対空砲火を開始する。</p>
<p>「ったく際限がねえ！　どうなってんだよっ！」</p>
<p>エレンの稲妻は、二本にまで減っていた。エレメンタルタロットの力で生み出したギターの弦は切れたまま、ぷらぷらと漂っている。それでも、エレンは二本の弦だけをかき鳴らす。パワーコードの稲妻が船体を抉るも、船は構うことなく陸地へ進む。</p>
<p>「……殺す」</p>
<p>一方で、ルーシアも苦戦を強いられていた。<br />
孤立した相手ならば、文字通りに『死神』の力を振るうルーシアだが、調和のとれた四人の連携は崩すことができないでいた。即死級の技を牽制によって封じ、時に密集、時に散開することで、ルーシアに的を絞らせなかった。</p>
<p>だが、『死神』の目は甘くない。四人の動きを見定め、連携の欠点を見破る。少女のひとりが足をもたつかせる仕草を見せた一瞬、ルーシアは鎌を投げつけた。<br />
飛来した鎌は、少女を上下に分断する。だが、分かたれた少女の上半身はルーシアめがけて飛びかかり、目の前で爆発した。</p>
<p>「……っ！」</p>
<p>ルーシアは、船の先端まではじき飛ばされた。<br />
今やルーシアに武器はない。丸腰になった彼女に、三人の血族少女が追撃に移る。</p>
<p>「ルーシアッ！」</p>
<p>エレンは二本の稲妻を方向転換。二重らせんを描く弦は少女のひとりに直撃するも、絶命までは至らない。次はその矛先をエレンに向け、大地を蹴って飛び上がった。</p>
<p>「チッ！　演奏のジャマすんなよっ！」</p>
<p>演奏を取りやめたエレンは、ギターで少女を殴打した。砕け散ったギターが耳障りな音を響かせて少女達を怯ませたが、その程度で追撃の手は緩まない。エレンに新しいギターを取り出す暇も与えず掴みかかると、ルーシアの隣へ投げ飛ばした。<br />
叩きつけられたエレンは、ふらふらと上体を起こす。そして、隣のルーシアへ決まり悪そうに笑った。</p>
<p>「ワリぃな、ルーシア……。やっぱ、アタシじゃダメみてえだ……」</p>
<p>エレンは、ルーシアの肩に体を預けて静かになった。<br />
半身にのしかかる重みを受け止め、ルーシアは眼前の少女達をにらみつける。<br />
三人の少女は、連携を取りながら武器を取って向かってくる。どう立ち回っても逃れられないようなフォーメーションだった。</p>
<p>「……終わり、ね」</p>
<p>残された体力と気力では、ルーシアに逃げ道はない。<br />
死を察知したルーシアは、避けようとはしない。エレンと同様、目を瞑り、死の衝撃を待った。</p>
<p>少女達の持つ武器が、硬質な金属に弾かれる不快な音を立てる。<br />
目を開けたルーシアが見たのは、ミレイユの後ろ姿だった。</p>
<p>「……なん、で」</p>
<p>「『死神』が、簡単に死ねるなんて思わないでくださいませ！」</p>
<p>大きく手を広げ、ミレイユはあらん限りの盾を張り巡らせた。<br />
船の先頭に位置したデッキに急造の防衛線を築き上げ、手負いのルーシア、エレンを少女達とダエモニアから完全に分断した。</p>
<p>「皆さん、無事ですかっ！？」</p>
<p>遅れて到着した万梨亜は、倒れたエレンとルーシアの応急手当を行う。<br />
万梨亜の祈りが通じ、エレンは気力を取り戻す。その一方で、疲弊が見られるルーシアは首を振って抵抗するものの、半ば強制的に活力を与えられた。</p>
<p>「いやー、助かった！　マジで死ぬかと思ったぜ。な、ルーシア？」</p>
<p>「……うるさい。頼んでない」</p>
<p>「相変わらず素直じゃねえな。ま、そこもロックだ！」</p>
<p>エレンの声を背中に受けつつ、鎌を取り出してルーシアはそっぽを向いた。いつもと変わらないルーシアの様子を見て、エレンと万梨亜は表情を綻ばせる。</p>
<p>だが、彼女達には時間がない。<br />
客船はいよいよ湾へと入り込み、脇目にスタテン島の女神像を見送った。<br />
船は陸地へ、摩天楼へ迫っている。</p>
<p>「後はこいつをどうやって止めるか、だが……」</p>
<p>デッキから眼下に見える喫水線を覗き込んでエレンはつぶやく。<br />
舳先は海まで張り出したコンクリートの桟橋を割りながら進んでいた。防波堤でも消波ブロックでも停めることはできない。<br />
前方には、セメントで舗装された護岸が見えた。そこに激突すれば船は止まるだろう。だがそれでは、船内に居る無数のダエモニアを上陸させてしまうことになる。<br />
数百万の人々が暮らし、世界中の人間が集まっている。この場所に感染型のダエモニアが放たれた場合、世界は簡単に終焉を迎えることになる。</p>
<p>止めなければならなかった。<br />
だが、万梨亜達には、船体を押しとどめるような手段はない。ミレイユがいかに巨大な盾を展開したとしても、船の動きをはじき返すことは不可能だろう。エレン、ルーシアにも手段はない。</p>
<p>押し寄せてくるような陸地を見て、万梨亜は思う。<br />
こんなとき、『正義』のタロット使いならば、どうしただろうか。<br />
人々を救うために自らの身を粉にしてきた彼女ならば。<br />
自らの正義を信じて行動した、強い彼女ならば。</p>
<p>だが、万梨亜には船を停めることなどできない。どんなに祈っても願っても、この場のダエモニアをすべて消滅させることも叶わない。<br />
手詰まりだった。<br />
万梨亜は、悲鳴にも似た独り言を漏らす。もう絶対に叶うことのない、悲しい祈りであると知りながら。</p>
<p>「助けて、シルヴィアちゃん……」</p>
<p>&nbsp;</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_03</title>
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		<pubDate>Fri, 29 Jan 2016 15:17:10 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[ふたりのシルヴィアを照らすスポットライトが溶け合った。 刃がぶつかり、飛び散った火花は辺りに拡散する。粉塵はきらめきながら、暗転した舞台に星空を描いた。 互角だった。 ほぼ同時に吶喊し、鍔を迫り合わせる。剣に乗せた突撃の [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>ふたりのシルヴィアを照らすスポットライトが溶け合った。<br />
刃がぶつかり、飛び散った火花は辺りに拡散する。粉塵はきらめきながら、暗転した舞台に星空を描いた。</p>
<p>互角だった。<br />
ほぼ同時に吶喊し、鍔を迫り合わせる。剣に乗せた突撃の勢いは、少女の刃と相殺された。これ以上の深入りは無駄と判断したシルヴィアは、体勢を立て直して飛び退く。<br />
それは目の前の少女も同じ。様子見の一撃から離脱まで、寸分の狂いなくシンクロしてみせた。<br />
背丈も顔つきも幼い姿そのものだが、シルヴィアが研鑽してきた剣術と全く同じ動きを見せている。<br />
生き写しなど生ぬるい。これではまるで鏡映しだった。</p>
<p>「ふう……」</p>
<p>思わぬ強敵を前にして、シルヴィアは短く息を吐いた。<br />
今まで相手にしてきたダエモニアは、力任せに破壊を振りまくだけだった。このような洗練された敵との組み手を経験したのは、『正義』の試練の頃まで遡らなければならない。<br />
ちょうど、あの少女と同じ背格好で、候補者達を相手に修行に明け暮れていた頃のことだ。</p>
<p>シルヴィアは、拡大したスポットライトの際に立つ。<br />
その時、ふたりのシルヴィアの奥に、真白いスクリーンが浮かび上がった。ピントがぼやけた模様は、徐々に鮮明な像を結び、アストラルクスの様子を映し出す。<br />
まるで、映画でも見ているようだった。険しい表情の万梨亜がフェンリルを伴い、客船の通路を走っている。視点が切り替わり、中空に複雑な模様の稲光を描くエレン、槍を突き刺すミレイユの姿。そして、ルーシアが目にも留まらぬ早さで飛翔する。</p>
<p>「聞こえるか！　私はここだっ！」</p>
<p>スクリーンへ向けて叫ぶ。彼女らの元へ向かえるよう願う。<br />
だが、タロット使い達には届かない。そのうちに像がぼやけ、ホワイトアウトしたスクリーンには、黒い帳が下ろされる。<br />
ここは、物質世界でもアストラルクスでもない。<br />
それらすらも見下ろしている、さながら『上位の世界』だった。</p>
<p>だが、この場所に迷い込んだときの、万物がまぜこぜになったような感覚はもう消えた。研ぎ澄まされた意識の下、弛緩した指先を再び緊張させる。</p>
<p>「確かに、私のドッペルゲンガーのようだ。……だが！」</p>
<p>無機質な地表を蹴って距離を詰める。やはり同じ動作をとった少女は、シルヴィアの剣を真正面で受け止めるだろう。彼女は、フェイントを混ぜるようなことはしない。シルヴィアの意識に『真正面』以外の選択肢がないのと同様、少女の選択肢もひとつしかない。<br />
そして、再びの激突。シルヴィアは、刀身同士を押し当てたまま、前方へ踏み込んだ。</p>
<p>いかに生き写しの存在でも、体格差までは埋められない。<br />
事前の読み通り、身を翻した少女はシルヴィアを受け流した。シルヴィアは、前のめりの姿勢から腕をひねって、少女の柄めがけて斬りつける。少女はとっさに利き腕を引くも、切っ先は手の甲にかすり傷をつけることに成功した。</p>
<p>この剣術は、シルヴィアに辛酸を舐めさせた『正義』の候補者達が編み出したもの。周りよりも背丈が小さかった幼少のシルヴィアを悩ませた、体格差を利用した立ち回りだ。それが皮肉にも、過去の自分と戦う上ではシルヴィアにとってこの上ない武器になる。</p>
<p>少女の手の甲から、黒い体液がしたたり落ちた。<br />
だが、その程度の傷を構うような相手でないことは、シルヴィアが一番知っている。</p>
<p>「子どもだろうが、手加減しない。相手が自分だというなら尚更な」</p>
<p>少女はまた、にんまりと笑った。<br />
今度は少女から突進、シルヴィアへ横薙ぎを叩きつけてくる。金属音と共に受け止めたシルヴィアは、少女の刃を絡め取るように剣を真下へ動かすもかわされ、次は逆方向からの剣を見舞う。<br />
弾かれても絡み取られてもなお怯まず、右へ左へ斬りつける少女。そのたびにシルヴィアは釘付けにされるも、時折見せる間隙を縫って反撃する。<br />
やがてその攻防は、刃と刃、柄と柄を振るわせる激しい剣戟となった。<br />
剣がぶつかり合う短い音と同期して、細かい閃光が飛散する。ちらちらと照らされる白銀と黒銀は、完璧に制御された機械のごとき精密さで刃を、そして視線を突き合わせた。<br />
まるでそれ自体が演舞、一連の型であるように、払い受け、突き避けるふたりは剣舞のごとく舞い踊る。</p>
<p>「デュランダル！」</p>
<p>アストラルクスではないこの世界でも、白銀の鎧デュランダルの召還には成功した。<br />
そこからやや遅れて呼び出された黒銀の騎士に、デュランダルは不可避の拳を放つ。<br />
青銅の鐘を叩くような重々しい音がしたが、鎧の内側の空洞に反響するばかりで、鎧そのものを抜くことはできない。<br />
黒銀の鎧は、デュランダルの拳を掴んで遠方へ放り投げる。巨躯は何もない暗闇を舞い、落下。黒銀の鎧はデュランダルを打ち据えようと飛翔するも、動きを先読みしたデュランダルがカウンターパンチを叩き込む。<br />
こちらも互角。<br />
寸分違わぬ大きさで展開された鎧は、攻撃のたびに鐘の音を響かせる。</p>
<p>「ならば……」</p>
<p>少女との打ち合いを一時中断し、シルヴィアは後退。そして、剣を消した。<br />
少女は飛びかかってはこない。奇妙な行動を警戒しているらしく、ゆっくりと距離を詰めてくる。<br />
シルヴィアは一呼吸置いてから、両手を腰の辺りに構えた。それは、東方に伝わる抜刀術の基本形。ヴァネッサから聞きかじった程度だったが、強いイメージは実現しうると信じる。それこそが、タロット使いの強さだ。<br />
シルヴィアは瞳を閉じた。<br />
暗黒の中で少女の気配をたぐり、ヴァネッサがやってみせるような抜刀術を思い描く。</p>
<p>その時は突然やってきた。<br />
少女の発する殺気を読み取って、抜刀。自らの身を翻しながら抜き去った切っ先は、剣にはじき返されることなく少女の腹部を掠めた。</p>
<p>「分からないだろう。修練以外なかったお前には」</p>
<p>腹の切り傷を抑える少女は、眉をぴくりと動かした。<br />
相手に思考する時間を与えず、シルヴィアは剣を肩に担ぎ上げる。学んできた剣術とはかけ離れた隙だらけの姿は、身に迫る危険すら愉しむ死神のようだった。</p>
<p>シルヴィアは、剣を鎌に見立てて振り下ろす。大ぶりな初撃は避けられるも、鎌の動きをトレースしたシルヴィアの剣は、その体格差も相まって少女を押していく。<br />
ヴァネッサから聞きかじった抜刀術、ルーシアから見て盗んだ大鎌の挙動、そこに自らの剣術を織り交ぜる。<br />
渾然一体となったシルヴィアの刃は、それまで互角だった戦いを一変させた。<br />
複雑な動きから繋がる剣の連撃によって、少女を翻弄する。絡め手によって少女の握っていた剣ははじき飛ばされた。勝敗は決した。</p>
<p>「私の勝ち、だな」</p>
<p>少女は、黒い舞台に倒れ落ちた。<br />
もし相手が現在のシルヴィアであれば、あのような付け焼き刃の抜刀術や大鎌の振り抜きは通用しなかっただろう。候補者を蹴落とすばかりの当時のシルヴィアは、他者の短所しか見ていなかった。仲間の長所を学び、取り入れることのできないドッペルゲンガーには現在のシルヴィアは倒せない。</p>
<p>シルヴィアは、詰問しようと少女の襟首に手を掛けて顔を上げさせる。<br />
だが、その顔は変容していた。不気味な笑顔でも無愛想な堅い表情でもない、思い出すだけで気が重くなる見覚えのある他人の顔だ。</p>
<p>『ねえ、幸せ？』</p>
<p>「な、んっ……！」</p>
<p><a href="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/01/05_03.jpg"><img class="alignleft size-medium wp-image-698" src="http://geneino.com/wp/wp-content/uploads/2016/01/05_03-424x600.jpg" alt="" width="424" height="600" /></a>少女はシルヴィアの顔を捨て、かつての候補者の顔で問いかけてきた。<br />
驚愕したシルヴィアは一瞬の隙を突かれ、少女に押し倒される。</p>
<p>『私に勝てて、幸せ？』</p>
<p>そしてシルヴィアの体に跨がり、両手を首筋へと近づける。<br />
少女は、再び幼少期のシルヴィアへ戻ると、やはり不気味な笑顔を浮かべて首を絞め始めた。</p>
<p>「ぐっ！　かはっ……！」</p>
<p>抵抗しても、少女は手を離さない。<br />
指先はより強く喉元を締め付け、シルヴィアの呼吸と意識を奪う。<br />
もうろうとする意識では、剣を出すことも、デュランダルを操作することもできない。視界の隅で、黒銀の鎧に殴打されるデュランダルが見え、自らの意志が弱っていることをシルヴィアは悟った。</p>
<p>最期に見たのは、幼い、勝ち誇った笑顔だった。</p>
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		<title>最終章／幻影に舞う白銀_02</title>
		<link>http://geneino.com/hakugin-novel/05_02</link>
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		<pubDate>Thu, 21 Jan 2016 03:20:01 +0000</pubDate>
		<dc:creator><![CDATA[geneino]]></dc:creator>
		
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		<description><![CDATA[万梨亜らタロット使い達の目の前で、シルヴィアと少女は消滅した。 ドッペルゲンガーが自らを殺しにくる。 噂の域を出なかったはずの対消滅現象が発生してしまった。水を打ったように静まりかえるアストラルクスの沈黙を破ったのは、ミ [&#8230;]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[<p>万梨亜らタロット使い達の目の前で、シルヴィアと少女は消滅した。<br />
ドッペルゲンガーが自らを殺しにくる。<br />
噂の域を出なかったはずの対消滅現象が発生してしまった。水を打ったように静まりかえるアストラルクスの沈黙を破ったのは、ミレイユの声だった。</p>
<p>「シルヴィア様っ！？　シルヴィア様ぁっ！」</p>
<p>一番に這い寄ったミレイユは、シルヴィアの居た場所に膝をつき、混乱のあまり素手で地面をかき分ける。だが無駄だった。アストラルクスの地表がゆらゆらと揺らぐばかりで、シルヴィアと少女の行方を示すものは何も見つからない。</p>
<p>「落ち着いて、ミレイユちゃん」</p>
<p>「し、シルヴィア様は死んでいませんわ！　きっとどこかに隠れているだけ……！　隠れているだけでっ……！」</p>
<p>地表を揺らすミレイユの手はやがて力なく垂れ下がり、地面に顔を埋める。震え泣くミレイユを万梨亜は抱きしめる。<br />
万梨亜はまぶたを閉じなかった。もし閉じてしまえば、堰き止めていた物がこぼれてしまうと思ったから。</p>
<p>「マジかよ……」</p>
<p>驚愕しきりのエレンの独り言に、ルーシアは静かに喉を鳴らす。シルヴィアの気配は、アストラルクスのどこにもない。残っていた思念すら綺麗に消えてしまっていた。<br />
アストラルクスで思念が消える。それはタロット使いの死を意味していた。</p>
<p>ミレイユをその場に座らせて立ち上がった万梨亜は、拳を握りしめて叫ぶ。</p>
<p>「……みんな、来てっ！」</p>
<p>呼びかけに従い、フェニックスと倒れていたフェンリルが顔を上げる。そして中空に光が集まり、首を落とされて消滅したユニコーンが再び姿を現した。三体の召喚獣はめいめいに咆哮、オーキスを威嚇するも、彼は意に介すことなく問いかける。</p>
<p>「『正義』さえ手に入れば君達は用済みだが、私に協力するなら生かしてやろう。どうだね？」</p>
<p>オーキスの周囲に、四人の少女が現れた。機械的なスーツをまとった彼女らは、各々武器を携えている。</p>
<p>「彼女らは『血族』だが、能力不足ゆえに不適格の烙印を押されていた。だが、ダエモニアの制御技術があれば、タロット使いのできあがりだ」</p>
<p>「……違う。あれはダエモニア。同類じゃない」</p>
<p>少女達の異質な存在感の正体を読み取ったルーシアは、声を荒げる。<br />
少女達を支配するのはエレメンタルタロットに認められた者の思念ではなく、憎悪そのもの。<br />
姿こそ人間だが、その本質は救いようのないダエモニアだった。</p>
<p>「手厳しい『死神』だな。察しの通り、彼女らはダエモニアの精神汚染に勝てなかった。ほうぼう手を尽くしてはみたが……。ダエモニアに打ち勝てず発狂していく様子は、とても悲しいものだったよ……」</p>
<p>「どうしてそんなっ……。人間の命を何だと思っているんですか！」</p>
<p>万梨亜の叱責に、オーキスは額に指を当てて困惑するそぶりを見せる。</p>
<p>「本質が分かっていない君には、何を言ったところで理解できないだろうが……まあ、理解する必要もない」</p>
<p>オーキスの合図で、四人は飛び出した。<br />
万梨亜をめがけて飛来する少女達を充分に引きつけたところで、フェニックスが吼え、火焰を吐き出す。彼女達の連携を炎によって分断した万梨亜は、詰まりながらも、オーキスへ宣言した。</p>
<p>「たとえあなたがどんなに苦しんで、悲しい目に遭ってきたとしても……。命を粗末にするような人は、私は絶対に許したくありません」</p>
<p>「まるで自分が『正義』であるかのような物言いだな、優希万梨亜君」</p>
<p>呆れたようなオーキスの発言で、万梨亜は自然に口を突いて出た言葉に驚いた。だが、不思議と違和感はなかった。自分を守ってくれていた彼女ならば、こう告げただろうという安堵が、万梨亜の涙を押しとどめる。</p>
<p>「……『正義』なら、そうしたはずだと思いますから」</p>
<p>白黒はっきりつけたがる、融通の利かない性格。だが、ブレのない行動は、その周囲の人々を確実に突き動かしていた。<br />
万梨亜の『正義』の言葉に失意を振り解き、ミレイユも立ち上がる。</p>
<p>「……ええ。わたくしも、あの方が成そうとしたことを、遂げてみせます」</p>
<p>次なる命令を待つ四人の少女と、船上のチェス駒ダエモニアは、オーキスに注意を向ける。タロット使い達の処遇について決めかねている様子の彼だったが、どうやら思案を終えたらしい。敵意を向ける万梨亜達を流し見て、ため息をついて答えた。</p>
<p>「殺せ」</p>
<p>たった一言を合図に、弾丸の洪水が叩きつけられる。<br />
それは、タロット使い四名を蜂の巣にするには余りあるほどの量だったが、彼女達には届かない。<br />
万梨亜のフェニックスが焼き払い、ミレイユが盾で受け止める。エレンの六弦は、しなりながら絡め取り、ルーシアは凶弾となり得るコースだけをはじき飛ばす。後ずさりながら、もっとも効率よく弾丸の雨に対処できるようにテラスの中央に集まった彼女達は、四方から降りそそぐ死を振り払う。</p>
<p>「皆さん、無事ですか！？」</p>
<p>火焰を吐き続けるフェニックスに防衛を任せ、万梨亜は仲間に呼びかける。それぞれ賢明に盾を張り、かき鳴らし、鎌を細かく取り回している。</p>
<p>「無事は無事ですが、エレンさんの演奏がやかましすぎて集中できませんわ！　どうせ聴かせるならダエモニアの中心でおやりなさい！」</p>
<p>「ヘッ、どいつもこいつも！　ま、ロックってのは分かるヤツだけ分かりゃいいんだよ！　行くぜ！」</p>
<p>塊の中から抜け出したエレンは、先刻シルヴィアが見せたように上空高く飛び上がった。六弦の稲光を車輪のスポークのように回転させながら頂点に到達すると、軽快なリフを弾けさせる。</p>
<p>「焼き焦がしてやるぜェッ！」</p>
<p>天から、六本の霹靂が降り注いだ。稲妻はダエモニアのみならずアストラルクスの階層を縦貫し、オープンテラスにまで閃光とギターソロが落ちてくる。重低音のバスは内臓と心をいたずらに打ちのめし、タロット使い達を高揚させる。</p>
<p>「ああもう！　やかましいったらこの上ないですわね！」</p>
<p>ミレイユは、中空至る所に盾を出現させた。その盾に、エレンの放った雷撃が直撃し、反射。軌道を変えたレーザー光線は、死角に隠れ潜んでいたダエモニアを瞬く間に消滅させる。<br />
稲妻のシャワーが乱反射し、アストラルクスを縦横無尽にのたうち回る。大ぶりなエレンの雷撃は、ミレイユの盾で複雑な幾何学模様を作り出し、ダエモニアに逃げ場を与えない。</p>
<p>「ルーシアちゃん！」</p>
<p>そんな中、気力だけで鎌を振るっていたルーシアが、再び地面に膝をつく。憔悴していたルーシアの前に万梨亜のフェンリルとユニコーンが回り込み、身を挺して盾になる。</p>
<p>「…………」</p>
<p>肩で息をするルーシアを、万梨亜は背後から抱きしめた。力なく振り解こうとする小柄な彼女を抱き留め、万梨亜は強く念じる。傷が癒えるようにと願って。</p>
<p>「本当は休んでいてほしいけど……。力を貸してほしくて……」</p>
<p>万梨亜の強い願いは、アストラルクスに顕現するだろう。<br />
タロット使いの強さは、想いの強さでもある。何もそれはダエモニアを倒すための力だけではない。誰かを癒やしたい、力を与えたいという他者への祈りすら、強固であれば必ず届く。</p>
<p>「……私に命令するなッ！」</p>
<p>ルーシアは、万梨亜の腕を振り解いた。先ほどまでの憔悴ぶりを伺わせぬ機敏さで立ち上がると、万梨亜をにらみつけて飛び上がった。</p>
<p>「よかった……」</p>
<p>万梨亜はそう独りごちて、ルーシアの作り出す軌跡を眺める。<br />
飛び上がったルーシアは、乱反射するレーザー光の間隙を縫って、血族の少女へ向けて鎌を振るう。鈍い金属音とともに剣と激突、一度は受け止められたものの、勢いに押されて少女は吹き飛ばされる。背後に回り込んだ別の少女が銃撃を加えるも、ルーシアは振り向きざまに交わし、そのまま渾身の薙ぎ払いを見せる。<br />
鎌と一体となったかのようなしなやかな動きは、四人の血族を圧倒し、寄せ付けない。</p>
<p>「……オーキスを、早く！」</p>
<p>ルーシアが万梨亜に叫んだ。<br />
エレンとミレイユの合わせ技で大勢のダエモニアを焼き焦がし、ルーシアが憎悪に支配された少女達を引きつけていた。</p>
<p>「はいっ！」</p>
<p>万梨亜は、周囲を見渡してオーキスを探す。船内通路の奥へ走り去っていくオーキスを見留めた万梨亜は、フェンリルを伴って彼を追いかけた。</p>
<p>&nbsp;</p>
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