幻影に舞う白銀

Web novel GENEI NI MAU HAKUGIN

プロローグ編/第二話 『とある少女の独白』

作戦終了。
ダエモニアは砕け散ってぐちゃぐちゃになった。
息の根を止めるだけでいいのにここまで潰してしまうのは、全部大雑把なあいつのせい。

「すげーだろルーシア! ダエモニアなんてアタシのビートでこっぱみじんだぜ!」

どうしてこんなのと一緒に戦わなきゃいけないのか分からない。
うるさいし面倒だし鬱陶しいし、とっとと終わらせたいから必要以上に頑張って疲れるし。
そのうえ、

「やっぱ、アタシとルーシアはすげえロックだよな!」

なんて、ずっとこの調子だし。
暑苦しいから距離置いてるのにそれにも気づかず寄ってくるなんてバカなのかな。まあバカなんだろうけど。
これ以上やかましく騒がれるのもイヤだから私たちは本部に戻る。出撃から帰った私を待っていたのは、一応は隊長のメーガン。
隊長って言っても隊長らしいことはなにひとつしてないし、何考えてるか分からないから距離を置いてる。
というか、基本的に私はひとりで居たい。
他人なんてどうでもいい。私はひとりでも戦えるから。

「素晴らしい、容赦のない攻撃だったよ。ルーシア、エレン。よくやってくれた」

「当たり前だろ? アタシとルーシアは最強デュオなんだからな」

笑える、何が最強デュオだよ。本当にバカみたい。

「エレンの落雷と轟音、そしてルーシアの正確無比な斬撃とスピード。
世界広しと言えど、君たちふたりに敵うものなどそうは居ないだろうね」

「へへへ……。ま、褒められると悪い気はしねえよな、ルーシア」

そう言って、エレンは手のひらを私の方に突きだしてくる。
ハイタッチをして欲しいんだろうけど、そんなこと死んだってするもんか。

「おや、ルーシアはお疲れかな?」

メーガンはわざわざ膝を折って私の顔を覗き見てくる。
エレンとは違う意味でこの女は鬱陶しい。いつもニヤニヤ笑って聞こえのいい言葉ばかり並び立てるし、
人当たりの良さそうな対応ばかりしながら私たちをアゴで使ってるから。
エレンは騙せても、私は悪魔の囁きには騙されない。

「戦いはライブと同じなんだ、ステージから下りると疲れが出るんだよ。な、ルーシア」

あなたと一緒にしないでほしい。
私のことなんて何にも知らないくせに。

「さすがは一流のギタリストだ。ダエモニアとの戦いも君にとっては音楽活動の一環なのだね」

「まあな~、日常生活にはない刺激ってのがインスピレーションのモトになってるっつーかー?」

おだてられて調子に乗る。頭にすぐ血が上るし、冷静さなんて忘れて大暴れ、周りを見ずに大振りな攻撃ばかり繰り返す。
誰がカバーしてやってると思っているんだろう。どうしてこんなのと一緒に戦わなきゃいけないのだろう。

「そうだルーシア、今度アタシのライブ観に来いよ! むしろバンドやろうぜ!
ルーシアがボーカルやってくれたらアタシたちもっとロックになれるからさ!」

言うに事欠いて今度はバンドのお誘い。
こんな脳天気と一緒のチームで戦ってると思うとヘドが出る。

「へへへ、感動して声も出ないのか! アタシとルーシアの仲だろ? 心配すんなって!」

返事をすると「遠慮すんなって!」となり、無視すると「そのガン無視、ロックだぜ!」となる。
これは過去の傾向から分かっていること。
私は、ずーっと繰り返されているこのどうでもいい一連のやりとりから解放されるのをただ待っている。

人間もダエモニアもどうでもいい。
ダエモニアを殲滅する仕事だけやっていたい。
私に干渉してくる面倒な連中は、みんな死ねばいいって願いながら。

「じゃ、アタシはさっそく曲作りしてくるから。さっきの戦いでかっこいいフレーズ浮かんだし!」

さんざん私を振り回したエレンは、どこがいいのかよく分からない曲を作りに帰る。
いつもならここで一連の茶番が終わるはずだった。
でも、今日は様子が違った。

「雫やクリスティンに調べてもらったが、先ほどのダエモニアは自らの才能を認めない社会に絶望していたようだ。
戦っていて感じることはあったかい?」

張り付いた笑顔でメーガンは私たちを見てくる。薄気味悪い。
だいたい、ダエモニアとの戦闘中に物思いにふける暇なんてない。私は無心で全部殺すだけだし。

「へっ、どんな理由があろうがダエモニアの誘惑に負ける方が悪いんだよ」

そう。ダエモニアに食われるのは弱い人間だけ。恨みや妬み、負の感情に翻弄されて我を失った人間が手にする死に至る病。
同情の余地もないくらいにバカな人たち。
エレンの発言には同意したくないけど。

「ふふふ、君は容赦がないね。だがその通りだ。
自分の実力不足を社会のせいにするような人間が成功を夢見るなどおこがましい話だろうからね」

「ああ! どうせ大した努力もしてねえクズなんだよ!」

そう言ってダエモニア憑きを切り捨てるエレン。
でも、私には分かる。エレンは虚勢を張って強がっているだけ。

本当は、エレンはダエモニアに同情している。とどめを刺すときに動きが鈍るから。表情だって硬くなるから。
倒したくないならそう言えばいいのに、無理してバカみたいに明るく振る舞っているから。
隠しているつもりでも分かる。エレンのことなんて分かりたくもないけど。

「ルーシアもそう思うだろ?」

エレンは甘すぎる。
メーガンが言うような『容赦のない』タロット使いじゃない。
ため息をつくのも面倒だったけれど、黙っていて勝手に肯定されるのも気に食わない。
私は息を吸い込んで、久しぶりに言葉を話すことにする。

「みんな死ねばいい」

「そうだよな! さすがルーシア、マジでリスペクトしてるぜ!」

エレンが抱きついてくる。こいつには皮肉なんて通じない。彼女に言わせれば私は「すべてがロック」だから。

別に守りたいものがあるわけでもないのに。
望んでこんな生き方を選んだわけじゃないのに。
私はただ、戦うしかやることがないから戦ってるだけなのに。

「アタシたちふたりでダエモニアを全滅させてやろうぜ!」

人間もタロット使いもダエモニアもみんな同じ。
すべてなにもかもみんな、死んでしまえばいい。

エレンの腕を振り払った私は、よれよれになった服を直す。
これで面倒な仕事はおしまい。ようやくひとりになれると思った矢先に、出撃を知らせる鐘が鳴り響いた。
今日は他のタロット使いも出払っているから、休んでいる暇はなさそう。

「帰ったところすまないが、もうひとがんばりしてくれるかな?」

メーガンはさっきから表情をほとんど変えてない。べったりと張り付いたような笑顔で私たちふたりを見る。
出撃することははじめから決まっているのに、そんな心にもないような台詞聞きたくない。

「アンコールならしゃーねえよな! よし、ふたりでステージを盛り上げようぜ!」

エレンは私の手を握り、いつもの強がりな笑顔を見せてくる。
大暴れしたい、でもダエモニアはかわいそう。そんな矛盾を底抜けに明るい笑顔で包み込んで。
私はただ頷く。
そして、出撃へ向かう私たちの背中へ悪魔の声が飛んできた。

「エレン、ルーシア。君たちの活躍には期待しているよ。がんばってくれたまえ」

なんの感情もこもっていないメーガンの激励は、私の耳を素通りした。
人間もダエモニアもどうでもいい。褒められようが貶されようが、私は自分の仕事をするだけ。みんな死ぬまで、戦い続けるだけ。
握ったエレンの手がわずかに強ばっているのを感じながら、私たちはダエモニア殲滅へと赴くのだった。

 




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